日本の企業はブランドの本質を知らなさすぎる 「刀」の森岡毅氏に聞く世界一ブランドの創り方

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――コロナ禍で、エンターテイメント業界は本当に困難な状況に直面しています。再生を支援するのは容易なことではありません。

コロナ禍ではっきり見えたのは「哲学を持っている経営者」と、単に役割としてやっているだけの「サラリーマン経営者」の違いが、残酷なまでに分かれたことです。エンターテイメントの領域でも、そこに従事する人たちの職業使命をどれだけ守る気概を持っているか、というところでリーダーの覚悟が試されています。

例えば私たちが2018年から支援している大自然の冒険テーマパーク「ネスタリゾート神戸」(旧グリーンピア三木、兵庫県三木市)は、昨年発出された緊急事態宣言を受けて一時期、売り上げがほとんど蒸発しました。そのとき、私たちは需要予測を行う際に使っている数式を用いて、感染者数の将来動向を予測してみました。すると「夏から秋にかけては再度緊急事態宣言が発出される確率はかなり低い」という予測が出ました。そこで、ネスタリゾート神戸の運営側には「夏から反転攻勢をかけます。ここで新エリアをオープンしましょう」と進言しました。

緊急事態宣言によって売り上げが上がらず、キャッシュフローが枯渇する恐れもあったので、とにかく新エリアを立ち上げて、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「事故死」を回避しなければならない。そのためには「ブレーキを踏むのではなく、むしろアクセルを踏んで事故を回避するしかない」と、いくつかの根拠を示しながら説明しました。

当然、新エリアを立ち上げれば広告費が発生しますし、従業員を増員する必要もあります。しかし、経営陣は覚悟を決めて「やりましょう」と言ってくれました。その結果、昨年の9月売り上げが前年比133%、10月が同187%、11月が同161%、12月が同151%という驚異的な結果を出すことができました。

「哲学を持った経営者」こそ逆境に強い

これこそがリーダーの決断なのです。私がいくら言ったとしても、受け止める経営者が決断できなければ、何も実行できません。もともと同施設は、年金福祉事業団が全国に整備したグリーンピア施設のひとつです。莫大な資金を投入して造ったものの黒字化せず、いわば民間に「払い下げられた」のです。このように、なかなか引き受け手自体が見つからないところに「蘇らせよう」と手を挙げたのが現経営陣でした。

このような決断ができたのは、この施設を蘇らせることが地元貢献のために重要であることを現経営陣が本当に信じていて「何が何でも成し遂げたい」と思っていたからです。

しかも、すべて自分たちの手で何とかしたいというエゴを捨て去り、私たちのような外部の人間を招聘してでも目的を達成しようとする実行力は、哲学を軸に経営を考えているからこそ、生まれるものだと思います。今回のコロナ禍のような危機に直面したときほど、哲学を持って経営にあたることの大切さを、改めて認識しました。

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