出版業界には、取次と呼ばれる会社が存在する。本を売る書店と、本を作る出版社の間を取り次ぐ存在だ。一部の例外を除き、ほとんどすべての書店、出版社が、取次と契約関係にある。日本全国に書店数は約1万5000、出版社数は約3900。ひとつの出版社が1万5000の書店と直接やりとりするのも、ひとつの書店が3900の出版社と直接取り引きするのも事実上不可能だ。そこで、間に入って面倒を見てくれるのが、取次というわけだ。
その取次最大手が日本出版販売株式会社、通称・日販だ。東京都北区にある王子流通センターでは、一日最大200万冊の本を動かしているという。日本最大級の書店、MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店(大阪市)の在庫が200万冊あるが、あの書店一軒分を一日で動かすというのは、尋常ではない。さっそく現場を見に行くことにした。
記念に検印してもらった
やってきた王子流通センターは、敷地が6760坪もある。正門には保安所があり、その手前に置かれた小さな立看板には「あなたの読んでいる本をセンターに持ち込む時は検印が必要です」と書かれている。いったん中に入ると、商いの道具である本と、私物の本の区別が付かなくなるからだろう。
もちろん、押してもらう。同行者たちも観光地のスタンプを我先にと競うように鞄から本を出している。ちなみに、本はそれぞれ、『遅い光と魔法の透明マント』(草思社)、『会社が消えた日』(日経BP社)、『論文捏造』(中公新書ラクレ)、『旧暦で日本を楽しむ』(講談社+α文庫)、そして週刊東洋経済最新号である。
「ここに押して下さい」。本を開いて見せると、保安所の担当者は「あの、どちら様ですか?」と問う。そこで、「すみません、申し遅れました。本日は取材で伺いました」と答えると、「取材なら検印は不要ですよ」と、残念な回答。ハンコが欲しいんです!「いや、何が何でも押してください」。無事、ハンコをもらうことができた。
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