カドカワが熱望した「収益基盤」と「後継者」 角川会長はなぜドワンゴとの統合を決断したのか

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川上量生(右)は統合会社について「世界的にはちっぽけな会社」と語った

「この1年、春樹氏の名前が出てくるようになった」──。KADOKAWA(以下、角川)の角川歴彦(つぐひこ)会長の変化に、周囲は気づいていた。

1993年、角川春樹氏が麻薬取締法違反事件で逮捕されたことで、会社を追われていた実弟の歴彦氏が社長の座を引き継ぐ。以来20年余り、歴彦氏の口から春樹氏の名前を聞くことはなかった。

どんな心境の変化があったのか。周囲には「思う戦略が実現してきた歴彦氏の自信の表れ」と見る向きがある。今回の経営統合で、その自信はさらに深まったに違いない。

5月14日、動画配信大手・ドワンゴとの経営統合を発表した記者会見場。歴彦氏は満面の笑みで現れた。9月26日に両社は上場を廃止し、統合持ち株会社が10月1日に上場する予定だ。

3年前、歴彦氏はドワンゴ会長の川上量生(のぶお)氏に統合話を持ちかけた。経営不振のドワンゴに検討する余裕はなく、角川グループホールディングス(当時)もグループ再編の途上にあった。歴彦氏は外堀、内堀を埋めに入る。2011年に資本提携し、12年にはネット広告の合弁事業を開始した。「今や社内にドワンゴとの統合を意外に思う人はいない」(歴彦氏)。

そこまでして、歴彦氏がドワンゴを手に入れたい理由。それは将来への危機感だ。

強力なプラットフォームが必要だった

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統合の狙いを語る角川歴彦氏

角川の14年3月期の営業利益は61億円。営業利益率はわずか4%しかない。利益の大半は書籍で稼ぎ出す。ネット事業の売り上げは216億円と30%近く伸ばしていても、営業利益はほぼ出ていないようだ。

角川が生き残るためには「世界に類のないコンテンツプラットフォームを確立する」(歴彦氏)しか道はなかった。そのために必要な強力なプラットフォームをドワンゴに求めた。なにしろ、同社が運営するニコニコ動画の会員は4000万人近く、有料のプレミアム会員も223万人を数える(3月末時点)。

一方、ドワンゴ側のメリットはコンテンツの充実だろう。従来はサブカルチャー的な動画が主流だったが、最近はより広い層を意識したコンテンツに力を注いでいる。昨年11月には、ディズニーのコンテンツ配信を本格化した。角川の持つ豊富なコンテンツをドワンゴのプラットフォーム上で提供できれば、その魅力が増す。それでも川上氏は「世界的に見ても新会社はちっぽけな存在」と言う。

当然、懸念もある。ドワンゴは17年の歴史の中で、オンラインゲームの開発、従来型携帯電話の着メロ・着うた、ニコニコ動画と、主力事業を次々と替えて成長してきた。その身軽さが統合で消えてしまわないか。新会社の社長に就任する佐藤辰男・角川取締役相談役は統合のシナジー効果としてゲーム情報ポータルなど5分野を挙げた。しかし、そうした事業は資本業務提携でも十分に可能だ。

歴彦氏が統合にこだわったもう一つの理由。それは川上氏という後継者を得ることだった。「若き経営者を手にしたことは大きい」(歴彦氏)。

過去のメディアの大型統合は失敗例が多い。両社はジンクスを破れるか。歴彦氏の決断スピードに周囲がついていけるかに懸かっている。

(撮影:今井康一 =週刊東洋経済2014年5月24日号〈5月19日発売〉核心リポート05)

長谷川 愛 東洋経済 記者
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