ゼンショーが抱く、あまりにも壮大な夢 ゼンショー・小川社長が語る経営哲学(1)

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「転向」ではない

――わかりました。資本主義で行こうと。よく言われる転向という意識はなかったんですか。

全然ない。全員とはいわないまでも、僕らの全共闘というのは、転向という言葉はあまり聞いたことない 挫折と言う言葉はいっぱい聞いたけど。

――1978年、29歳のときに吉野家に入られた。どういうきっかけだったんでしょうか。

そういう流れの中で、これからは就職しなきゃなんない。中小企業診断士の勉強もしてきていたから、これからはコンビニか外食産業かなと思ったわけですよ。今さら自動車産業ということもない、あの当時(笑)。

自分で考えていた、こだわってきた「食」ということ、世界の人間を食えるようにするという自分の人生のテーマからしても、どっちかというと外食産業がいいだろうと、ということで、入ったわけです。

――入られたときの吉野家はどうでしたか。2年後には倒産するわけですが。

なんていうんですかね、高成長してきた会社、している会社。当時、国内200店、米国200店というスローガンを掲げて求人広告を出していたわけですよ。これはちょっと見どころがあるかもしれないなと。ワサワサして、成長している企業。

当時は松田瑞穂さんが社長で。面接を受けて試験も受けて、入ったんですよ。人事部長のアリタさんに、初任給15万円やるからどうするっていうから、 普通にやってくださいということで入って、川崎店にトレーニングで入って、まずはカウンターサービスから。結構ご飯盛るのも難しいんですよね。自慢のお玉 で瞬間で並盛80グラム、大盛110グラム、時間帯200人くらい入る繁盛店でしたから、そこから出発しました。

最初は正月から入ってね、やっぱりお客さんがあまり来ない。店長が、今日は暇だから、目地磨きと言って。そのとき生まれて初めての目地磨き、やった ことないでしょ。トイレのセメントに目地があるでしょ、目地に汚れが入っているから、年1回はナイロンたわしで洗剤つけて磨けと。まずはトイレの目地磨き から始めて。正月明けからやりました。

――その後すぐに店長になって。

2カ月ぐらいで店長になった。当時はドシドシ出店しているから、早く店長になれて、それから本部に行ったわけですよね。

――松田さんが小川さんを、幹部候補生として採用したんですか。

松田さんが採用したんじゃなくて、人事部長が採用した。さっき言ったアリタさん、海軍兵学校出身の人なんだけどね。

海兵って優秀でしょ。僕の叔父貴も海軍出身なんだけど、母親の弟。そこから一つ学んだんだけど、海軍というのは早くしゃべんなきゃいけない、だからしゃべり方が同じなの。なるほどなあ、カルチャーとはこういうものなんだなあと。

それで、横須賀に戦艦三笠ってあるんだけど、見たことありますか。見たほうがいいですよ。日露戦争の旗艦。見に行って、なるほどなあと。帝国海軍の 原点だからね、原点ここにあり。英国で建造されて、日清戦争の賠償金で買った戦艦ですよ、当時最新鋭の。19世紀後半の生産力、技術力はすごいなあと、船 を見るとわかりますよ。

これをやっぱり駆使して、オペレーションして習熟してバルチック艦隊に勝ったわけですよね、わが帝国海軍は。そこがまた一つのエポックになったわけですよ。そういういろんな目で見ると面白いですよ。当時の帝国海軍、陸軍もそうだけど、強かった。

昭和の軍隊はなんで弱くなったのか、これも一つのテーマなんですけど、ちょっと脇道に行くけど。のちに柴五郎さんの本を紹介されて。柴五郎が昭和17年に、こういう風にインタビューされて、遺書代わりに出されたのが、『ある明治人の記録』。

昭和17年に提灯行列やったでしょ、シンガポール陥落した、勝った勝ったって。そのとき柴五郎は、この戦は残念だけど負けたという風に言ったと書い ているんですよ。なぜなら、というのが面白いですよね。中国において、こういうことをやっている軍隊は勝てるわけない。つまり非人道的なことをやっている。

柴五郎は明治維新のとき10歳だった、重要でしょ、ね。それで会津藩、薩軍がどんどん攻めてきて、という中で、明日薩軍が会津城を攻撃するという足 音が高まったときに、おばあちゃん、お母さんと、お姉さんと自刃した。親父とお兄ちゃんは殿様を守らなきゃいけないから。お母さんが自刃する前に、柴家の 男の子一人は何とか生きさせたいなと思ったんでしょ。負けるのはわかっていましたけど、逃がした。

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