古くさい野球界が、やっと変わり始めた 侍ジャパンが打ち破る、プロ・アマの壁

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昨年秋、15Uの侍ジャパンに招集された中学生たちに、鹿取はこう話しかけた。

「15Uの侍ジャパンのユニフォームを着られるメンバーは、今年は全国で20人しかいない。君たちは15歳の時点でこのユニフォームを着ている。高校になっても、大学でも、同じユニフォームを着るんだぞ。行く末は、トップに行くんだぞ!」

選ばれた少年たちは、鹿取の叱咤に襟を正した。数日間、プロの指導を受けながら、全国トップクラスのチームメートと切磋琢磨することで、瞬く間に成長していく。自信をつけて所属チームに帰り、技術や経験を仲間に還元する。そうすれば、日本各地にプラスの好循環が生まれていく。平等を盾に殻に閉じ込もるより、競争を発展の種とすべきではないだろうか。

そう考えるからこそ、侍ジャパンは「2017年世界一奪還」を掲げているのだと思う。勝利しなければ、得られないものがあるからだ。

鹿取が言う。

「日本の野球は強くならなければいけない。そうなるためには若い子どもの年層からやっていかないと、急には強くならない。何年かかるかわからないけど、今回、初めて侍ジャパンという仕組みができたので、いろんな年代で教えて、上まで行く道筋をつけてあげたい。年代別でやらなければいけないメニューがあるので、12歳はこれ、15歳はこれをやってと、そこを通り過ぎれば誰も壊れないような仕組みにしたい。そういうマニュアルを作れば、指導者も『これをやっておけばいい』と安心して教えることができる。プレーだけではなく、フィジカル、食事面も含めて、1冊にできればいいと思います」

アマチュア側での方策

野球の強化、競技人口アップに向けていそしんでいるのは、プロだけではない。アマチュア側は、根本的な方策を打とうとしている。

鈴木が普及させたいと考えているのが、「投手のいない野球」と言われるTボール(ティーボール)だ。投手が投げる代わりに台に置いたボールを打つので、難易度が極端に下がり、打撃の楽しみを体感できる。日本ではまだなじみが薄いものの、世界のある地域では少年たちの間でポピュラーに行われている。

筆者はこの春、ウラディミール・バレンティン(東京ヤクルトスワローズ)やアンドリュー・ジョーンズ(東北楽天ゴールデンイーグルス)を輩出したキュラソーを取材で訪れたが、当地から優れた打者が次々と生まれてくる一因は、野球をプレーし始める前にTボールで打撃を学ぶからだと、現地関係者が話していた。

鈴木が言う。

「アメリカ、キューバ、中南米の国では『打つことが面白いな』っていうところから、野球が始まっていく。日本とはスタート時点の考え方が違うと、よく言われます。確かにそうだなと感じますね。もっとTボールを普及させることで、野球の楽しみもわかってもらえると思う」

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