「パパとママは、あの桜の下で結婚したのよ」 「ラ・クラリエール」がカップルに選ばれる理由

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過去の証しだけでなく、未来への約束も

「樹齢100年の桜」が、過去から続く歴史を大事にすることのシンボルであるならば、隣接する「保育園」は未来へ続く歴史を大事にすることのシンボルです。ラ・クラリエールには、式場の周りにベーカリーカフェやレストランなど、いくつかの建物があり、そのひとつに保育園があるのです。

保育園が隣接している

「結婚式を挙げて、ここに子どもを預けるのが夢、と語ってくださる方もいらっしゃいます。私たちにとっても、結婚式の後も継続してつながりが持てるのは、たいへんうれしいことです」

新郎新婦のおふたりと一緒に結婚式を作り上げるウエディングプランナーである清水恵さんは言います。実際にはラ・クラリエールは始まってから3年なので、まだそういうケースはないものの、冒頭で挙げたような親子の会話はすぐにでもありえる話です。

これは、結婚式というたった数時間で終わってしまう価値を、より長い人生の価値に変えてくれるものであり、このラ・クラリエールとのかかわりをより長い時間軸で想像できるということでもあります。

特に、結婚式と子どもの誕生は、人生の中でも最も幸せを感じるイベントであり、そのふたつのイベントの場所がつながっていることは、人生にコミットメントしてくれる場所であることを意味しています。

そして、人生へのコミットメントという点では、保育所だけでなく、式場の一部を使って七五三イベントを行ったり、ベーカリーカフェの中にあるカルチャースクールでは毎日のようにワークショップが開かれるなど、お客様のその後の人生の中で、たくさんの接点が持てるように考えられています。

また、式場の隣に保育園があることには、ほかにもメリットがあります。

「一時保育を受け付けていて、資格を持った保育士がおりますので、ご参列いただくゲストの方々も遠慮せずにお子さんをお連れいただけます。ふたりの結婚式を楽しんでいただくことができ、本当に喜んでいただいています」

このように、人生の時間軸だけでなく、式場と保育園という意外な組み合わせが、新たな価値も生んでいるのです。

時間軸を超えたつながりを約束することが深い信頼に

「結婚式という出会いを通じて、その後に続く人生においても、おふたりにとって大事な場所でありたいと思っています。結婚式で終わりではなく、レストランに食事に来ていただいたり、カルチャースクールで開かれるワークショップに参加していただいたり、そして保育園に子どもを預けてもらったりして、その後も長くお付き合いしていきたいのです」

三浦さんはお客様の人生に長くかかわりたいと言います。

結婚式は、総額400万円近くする、人生で最も高い買い物のひとつです。しかし、実際に試してみることが難しいうえに、基本的には結婚式は人生に一度しかなく、リピートする商品ではありません。そのため、選択するうえでも、なかなか価値基準を持ちにくい商品です。

このラ・クラリエールが提供しているのは、わずか数時間の結婚式ではなく、その後に続く長い時間軸でのお付き合いなのです。そして、この長い時間軸のお付き合いをしたいという思いが、たった一度の結婚式を挙げるときに、より高い信頼につながります。

これは「モノがあふれた時代のモノの買い方、売り方」を考えるうえでも、とても参考になる話だと思います。お客様の信頼を得るためには、さまざまな価値や物語を語っていく必要がありますが、そこに時間軸を持った価値があるかどうかが重要です。

ラ・クラリエールの場合、樹齢100年の桜の物語から長く続くものを大事にするということを、そして保育園が隣にあることからお客様のその後に長くかかわりたいということを、感じることができます。

同じように、モノやサービスを提供する際にも、そこに付随する時間軸を持った物語を提供すること、そして売ったら売りっぱなしではない、その後を考えたお客様とのかかわり方を考えることができるはずです。

さらに、お客様とのかかわり方も、個々のお客様のライフサイクルによって変化していきます。お客様が今、人生のどのステージにいて、次にどのステージに向かうのかを意識しながらコミュニケーションができれば、ずっと関係性を継続することができる可能性は高まりますし、今の信頼感にもつながります。

「モノがあふれた時代」だからこそ、モノを売る瞬間だけでなく、その前と後を意識した売り方と買い方が、新しい価値になりえるのです。

山崎 大祐 マザーハウス 副社長

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やまざき だいすけ / Daisuke Yamazaki

1980年東京生まれ。高校時代は物理学者を目指していたが、幼少期の記者への夢を捨てられず、1999年、慶応義塾大学総合政策学部に進学。大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。2003年、大学卒業後、 ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本及びアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。副社長として、マーケティング・生産の両サイドを管理。1年の半分は途上国を中心に海外を飛び回っている。

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