堀紘一氏、クリステンセン教授と経営を語る 経営とは理論的なのか

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いい理論とは何か

クリステンセン:こういう理論を(カメラの)レンズセットのようにすれば、いろんな業界が進んでいく先を予測できるのではないかと考えたのです。

次には『イノベーションへの解』を書きました。主に電気通信業界に関する本。それからまた2冊出して、『イノベーション・オブ・ライフ』。今日の医療保険制度の惨状とその将来に関する本。そして、国家はなぜ成長してなぜ不安定になるかということに関する本。こちらのタイトルは『キャピタリストのジレンマ』です。

:キャピタリストのジレンマですか。

クリステンセン:年代順にはこういう展開なのです。一見すると、私が焦点を見失っているような感じでしょう。このうち3冊には共同著者がいますが、それぞれ別の人ですし、どの本もそれぞれの分野の問題と解決策に大きな影響力を及ぼすものです。

そんなわけで、これとあれはずいぶん違うじゃないか、これと通信業界の話は別だろうなどと、人には言われるでしょう。でも私は、そうじゃないと答えます。

なぜなら私は理論のセットを持っています。それは因果関係を示すものなのです。現状打破(破壊)の理論、いかにして成長は生み出されるかという理論、何が人に物を買わせるのかという理論。与えられた課題にまつわる因果関係、物事が出現するか企画されるかの違いなど、いろんな理論があります。

私は、理論によって世の中の仕組みを理解しようとしています。理論をレンズセットのように使いこなし、医療制度について検討します。教育問題を検討する際にも、同じ理論のセットを使います。

それでも私は焦点を見失っているなどとは、全然、思いません。それどころか、しっかりと焦点を合わせています。いい理論というものは、個別の企業とか業界とか団体にだけ通じるものではありません。

何がなぜ何の原因になるのか、ということを示すのがいい理論なのです。

ですからペット保険に投資するかと思ったら、また別のことに投資すると言えば、「焦点を見失っている。ひとつの業界とか投資段階とか地域に絞り込むことが必要だ」などと、人には言われるでしょう。でも私の直観では、そういう人たちは相関性に基づいて総論を述べているのです。すると集団に対して一般化することはできても、個別の問題には対応できません。確率の問題になります。

けれども理論によって焦点を絞るようにすれば、因果性と向かい合うことになります。ゆえに個々人について述べることが可能になるのです。

:なるほど。

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