堀紘一氏、クリステンセン教授と経営を語る 経営とは理論的なのか

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「科学的方法」と「統計的方法」の違い

クリステンセン:何世紀も昔のことですが、どうして世の中はこういう世の中になるのか、という問題を人々は全然、理解していませんでした。そこへ(フランシス)ベーコンが現れて「科学的方法」をもたらしました。何が原因で何が起こるのか、そしてそれはなぜなのか、ということを解き明かそうとする試みでした。つまり因果関係の究明です。

世の中はたいへん複雑なものです。仮にひとつの現象を見つめ、その原因を究明しようと思ったとします。注意深く見てみると、相互依存性を持つ原因の数々が、もつれ合うようにしてその現象を囲んでいるものです。世の中はひとつの原因とひとつの結果によって成り立つものではありません。深く生い茂った木立のように、原因が現象を取り囲んでいるのです。

この科学的方法ゆえに、科学者はただひとつの現象に焦点を当てるようになりました。

私は脳卒中を経験したため、数字や単語を思い出せないときがあります。

科学者たちはひとつの対象に焦点を絞り込み、ひとつのことだけ深く研究することによって、問題を単純化しました。科学的方法は、人間の周りの物理的な世界に対して、理解と予測可能性をもたらしました。

次に現れた社会科学者たちにも、世界を単純化する必要が生じました。でもたいへん異なる姿勢を取りました。原因の森に立ち向かうのではなくて、原因となる多くの力を不変のものとする、またはその存在を打ち消して、結果に影響を与えそうないくつかの要因だけに焦点を当てる。そうやって単純化を図ったのです。そのうえで、高度な分析をしました。統計的相関性を用いて相関性のモデルを考案したのです。

:そうですね。

クリステンセン:ほんの少しの要因だけを見て、そのほかの一切はないものと想定し、単純化しようとしたわけです。科学的方法は複雑性を示していたのですが。随分と違うことになりました。

でも重要なのは次の点です。科学的方法が因果関係を示した一方で、統計的手法は相関関係を示すということです。

相関性を検討することは、ビジネス、教育、公衆保健、医療の各分野で、思考の枠組みとして定着しています。新薬を申請するためには臨床試験が必要だというふうに、物事の相関性を示すようにすると、因果関係ではなく確率で表現することが可能になります。

これまで私は順調に仕事をしてきたと、人々には言われるかと思います。この私がずっと目指してきたのは、マネジメント(経営・運営)をひとつの現象として取り上げ、科学的方法というレンズを通して研究することです。それだから成功してきたのだとも言えるでしょう。

なぜ何が何の原因になるのか。要素の森がマネジメントを複雑な現象に見せているが、それはどういう仕組みなのか、という問題を理解するためです。そういうことを私はやってきました。

:面白い。

クリステンセン:いい結果が出ているんですよ、こんなふうに。最初に書いた本の『イノベーションのジレンマ』は、きっとご存じでしょう。

:誰でも知ってます(笑)。

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