日本人の英語力がまるで高まらない根本的要因 時間をかけるだけでなく明確な動機も必要

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そしてもう1つの提案は、やはり時間だ。

「早道は英語に囲まれている環境に身を置くことです。留学などで英語にどっぷりつかって日常生活を送ると、1年半か2年くらいで2700時間は達成できますよ」(坪谷さん)

よく「語学は日本人のいないところで学べ」といわれるが、これについては誰もが納得するだろう。

中国では小学校低学年から「シャワーのように大量の英語をヒアリングさせ、そのまま繰り返すことを続ける」(北京の名門小学校英語教員)という。 まさに中国では英語教育を効率的かつ合理的に実践しているのだ。

日本は英語を学ぶインセンティブがない

立命館アジア太平洋大学の出口治明学長(筆者撮影)
本連載の仕上げに、「知の巨人」APU=立命館アジア太平洋大学の出口治明学長へ日本の英語教育を巡ってインタビューした。大分県別府市にあるAPUは、外国人留学生が半分を占める大学。出口学長は読者にはもはやご紹介する必要はないだろう。

――出口学長は、日本の小学校の英語教育についてどうお考えですか?

出口:英語については、僕はグローバル社会ではマストだと思います。日本人はなぜ勉強するのか? なぜいい大学に行きたがるのか? いい企業に入りたいからでしょう。だから英語力を上げるのにいちばん良い方法は、たとえば経済団体の代表が「TOEFL iBTで85を取っていない学生とは面談しない」というような方針を示せば、学生は勝手に勉強します。これにつきますね。英語教育でいちばん必要なのは、小学校からとかいう話ではなくて、上手にインセンティブを設けることです。人間はインセンティブで勉強する動物なので。

――インセンティブのないことが、日本人の英語力が伸びない原因ですか。

出口:成績が採用基準になっていないからですよ。ほとんどの人間はそんなに志が高くないのです。いい会社に入って楽をしたいから、いい大学に行きたいと。そのいい会社が「採用基準はTOEFL iBT 85」といった瞬間に、学生は必死に勉強し始めますよ。社会的動機の付与の仕方が、日本は下手なだけだとおもいますよ。

――今回、中国の小学校英語教育を研究しましたが、とにかく中国の生徒・学生は英語に対するモチベーションが高いです。

出口:私が日本生命で勤務していた時代、1998年に中国の3つの大学で講義をしたんです。初めの学校は通訳がいて日本語で大丈夫でしたが、2つ目からは英語で話してくれといわれ、資料を棒読みしました。質疑応答の時間となり学生の質問をわからずにいると、大学の先生が「出口先生がわかるようにゆっくり話してください」と(笑)。そのときに学生から出た最初の質問が、「日本生命に入るとしたら、英語力はどの程度必要ですか」だったんです。

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