このようなシーンを実際に撮影するのは安全上、不可能である。和田氏は「ほとんど土下座のような状態」で関係各所の許可を得て回る一方で、撮影が可能なロケ地探しにも奔走した。
見つけたのは鶴ヶ峰駅付近の踏切。列車がまっすぐカメラのほうに近づいてきて、直前でカーブするため、撮影に支障はない。手前に踏切もある。そこで、役者が立っていない状態で列車が向かってくるシーンと、列車抜きで上戸彩が踏切内に立つシーンとの2回に分けて撮影し、それらを合成した。完成したシーンは、まったく合成に見えず、迫力満点。どうやって撮影したのかという問い合わせが、和田氏の元に相次いだという。
踏切の赤信号が点滅するシーンの撮影も一苦労だった。深夜作業を嫌った担当者は当初難色を示したが、「踏切の定期点検を撮影日に合わせて行う」ということで、ようやく実現した。深夜撮影のため信号音は出さず無音で撮影。あとで信号音を付け足した。
いちばん大変な作業は「社内調整」
『真夏の方程式』「とんび」「孤高のグルメ」……。話題の日本映画に伊豆急行が登場する機会が急速に増えている。4月4日公開の映画『大人ドロップ』もそのひとつ。伊豆・河津町を舞台とした高校生たちの夏の経験を描く青春映画だ。鉄道シーンが頻繁に登場する。
今回の撮影に協力した伊豆急行の場合は、貸し切り車両の特別運行に加え、一般客も乗る車両での撮影も行うなど、全面的なバックアップ態勢がとられた。
「役員が撮影スタッフにドリンクを差し入れするなど、社長以下、全員がロケ誘致に燃えている」と、伊豆急でロケーションサービスを担当する遠藤春江氏は言う。ロケサービスを行う専門子会社を設立し、協力内容や料金体系も明示化したことで、映像制作会社側も依頼しやすくなった。初年度となる2011年度の実績は33件だったが、12年度は55件、2013年度は2月末時点で67件と倍増している。「田舎の鉄道会社なので列車の運行間隔が長い。そのため臨時列車を出しやすいということもあるかもしれません」(遠藤氏)。

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