列車内や駅構内でテレビや映画の撮影を行う際には、鉄道会社の協力が不可欠だ。そんなとき、裏方として活躍するのが鉄道会社のロケーションサービスである。撮影時の立ち会いだけでなく、撮影用の回送列車を走らせたり、沿線の観光スポットやグルメ情報の紹介など、業務内容は多岐にわたる。
最近、ドラマやバラエティ番組でよく目にするのが相模鉄道だ。2009年までの撮影実績は年1~3回だったが、10年には13回、11年には39回と急増した。12年以降も30回を超えるハイペースが続く。「当社は都心に乗り入れていないため、東京、埼玉、千葉での認知度は決して高くない。将来はJRとの直通運転による都心部乗り入れも計画されており、認知度向上のためのひとつの手段として取り組んでいる」と、2010年からロケーションサービスを担当する和田潤一郎・総務担当課長は語る。
鉄道車両を使った撮影は非常に厄介だ。列車に乗った主人公をホームで見送るシーンのように、車両を使った撮影には時間がかかる。撮り直しをするたびに出発した車両を元の位置に戻す必要があるからだ。臨時ダイヤの作成に加え、運転や車両保守など多くの部署で調整が必要となる。撮影に難色を示す鉄道会社も少なくない中、相模鉄道は、極力、受けるようにしているという。
制作期間の短いバラエティ番組の場合、「相談を受けた翌々日にロケをしたいと言われたこともある」(和田課長)。無理難題を持ち込む制作会社の注文にも、できるかぎり応えてきたため、口コミで業界内に評判が広がった。「痴漢や飛び込み自殺といったシーンはお断りしていますが、たいていの内容はOKです」。
ホームページ上で撮影コストの試算ができるのも相模鉄道のユニークな点だ。撮影に必要な時間を入力すると、たとえば、駅構内の撮影は1時間当たり10万2638円、回送列車を1回走らせると30万7913円といった見積もり結果が出てくる。ただし、露出によるPR効果があると判断されれば、値引きもあるという。
和田課長に「最も思い出深い撮影エピソードは何か」と聞いてみたところ、2010年にフジテレビ系で放映されたドラマ「流れ星」の冒頭シーンという答えが返ってきた。主人公の上戸彩が夜の踏切内に立ち入り、茫然と立ちつくしているところに列車のヘッドライトが迫ってくるというシーンだ。
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