賃金の引き上げがなぜ必要なのか

企業の余剰資金を家計に還流させる効果

円安による企業収益の改善に加えて、4月からの消費税率引き上げを目前にした駆け込み需要の発生で、景気は回復している。前回の消費税率引き上げ時(1997年4月)に比べると、金融機関の不良債権問題が解消されているなど、日本経済の状況ははるかに良くなっている。増税後の落ち込みは避けられないが、1997年のアジア通貨危機のようなことでもなければ、一時的なものに留まるだろうという見方が一般的だ。

消費税率が引き上げられた後は、増税による価格上昇に加えて、駆け込み需要で先食いした分の需要がなくなっているので、家計消費の大幅な落ち込みが見込まれる。消費者物価が下落から上昇に転じていることもあり、ある程度の賃金上昇がないと増税後の消費が低迷して、景気回復が非常に緩慢なものになってしまう恐れはある。

消費の大きな落ち込みを回避するという意味もあって、政府は経済団体に賃上げを要請しているが、本来、市場で決まるべき賃金に政府が介入すべきではないという批判もある。

需要不足の原因は貯蓄余剰

日本のGDP(国内総生産)が潜在GDP(労働や設備が完全に使われた場合の産出量)を大幅に下回る状態が続いているのは、需要が不足しているからだ。その原因は、所得の一部が使われずに貯蓄されてしまうからである。しかし通常は、家計が所得のすべてを消費に使わず一部を貯蓄したとしても、金融システムを通じてそれを企業が借り入れて設備投資を行うので、国内の貯蓄と投資がバランスして経済は需要不足に陥ることなく動いている。

 マクロ経済学の最初で習う

企業の貯蓄投資バランス+家計の貯蓄投資バランス+政府の貯蓄投資バランス=経常収支

という式から、貯蓄余剰が発生したときに、バランスを取り戻す処方箋は、①家計にもっと消費させて貯蓄を減らす、②企業にもっと投資をさせる、③民間部門の貯蓄余剰を政府が吸収する(政府が支出する)、④日本経済全体の貯蓄余剰を経常収支の黒字を拡大する(資本流出させる)ことで吸収する、ということになる。

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