賃金の引き上げがなぜ必要なのか 企業の余剰資金を家計に還流させる効果

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配当増加にも効果あり

企業部門の貯蓄余剰を減らすもうひとつの方法は、株主への配当など財産所得への支払いを増やすことだ。法人税の軽減策としては、設備投資を刺激するという趣旨からも投資減税が好まれる。しかし、企業部門に滞留している資金を動かすという観点からは、配当に対する法人税の軽減のように、企業の配当増加を促すものでも良いはずだ。

配当の増加は賃金の引き上げに比べて金持ち優遇だという批判がある。しかし、国民は皆、公的年金や企業年金を通じて間接的には株式を保有しており、財産所得の増加は国民全体に恩恵が及ぶ。株価の上昇を歓迎するなら配当の増加でも大差はないだろう。

企業の余剰資金を家計に還流させてしまうことには、企業の成長力を低下させるという抵抗もある。しかし、成長が期待できる投資機会がないから企業は資金を抱えたまま投資を行わない。であれば、とりあえず家計に還流させて経済活動を活発にすることに意味がある。家計の所得を増やして消費者がより多くの消費をできるようにすることが経済成長の目的なのだから、賃金の引き上げや家計の財産所得の増加を犠牲にしてまでGDPを拡大させる意味はないだろう。
 

 

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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