賃金の引き上げがなぜ必要なのか 企業の余剰資金を家計に還流させる効果

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景気を刺激するために、企業部門の大幅な貯蓄投資バランスの黒字を縮小させるというのは、経済政策として自然な方向だ。

このための方法として、まず、企業の投資を活発化させて貯蓄投資バランスの黒字を縮小させるという方法が思い浮かぶ。設備投資減税や規制緩和で新規ビジネスを育成しようという発想はここから出てくる。

もう一つの方法は、企業の貯蓄を縮小させることである。従業員への賃金を引き上げたり、企業の黒字を株主に対する配当に回したりすれば、貯蓄が減少するので貯蓄投資バランスの黒字は縮小する。賃金を引き上げるという発想は、企業の貯蓄投資バランスの黒字縮小させる政策という観点からも意味があるだろう。

日本の賃金は高すぎるのか?

1980年代後半のバブルの時期に、将来の人手不足を懸念した企業が大量の採用を行うとともに、賃金を大幅に引き上げたことが、バブル崩壊後の日本企業の不振の原因の一つに挙げられることがある。日本の労働分配率が大きく上昇していて、賃金が高過ぎるという批判が行われるが、これについては、慎重に考える必要がある。

日本では労働分配率を計算する分母には国民所得(NI)が使われることが多い。これを見ると、バブル期に上昇した労働分配率は、現在も高止まりしている(左図)。

しかし分母をGDPにしてみると、1970年代半ばからほぼ横ばいで、バブル期にもそれほど上昇したわけではない。近年は、むしろ1970、80年代よりも低い水準にある(右図)。 

経済成長論などでは、労働分配率は長期にわたってほぼ一定だという経験則があるが、これはGDPに対する割合のことである。国民所得を分母にした日本の労働分配率が上昇しているのは、固定資本減耗(設備投資の減価償却費に対応する)の拡大によるものだということは、以前にもこのコラムで取り上げた通りだ(2013年3月16日「GDPに反映されない設備投資のコスト」)。

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