エネルギー基本計画案は矛盾だらけ 原発の高いコストとリスクを軽視
海外事情を含めてエネルギー政策に詳しい富士通総研経済研究所の高橋洋・主任研究員はこう指摘する。「原発が高コストで経済性が低いことは、少なくとも先進国では常識。英国政府は、原発に対してキロワット時当たり15.7円(1ポンド=170円換算)で35年間の売電収入保証制度を導入した。陸上風力よりも価格が高く、保証期間は2倍以上長い。原発はハイリスクハイリターンだから、そこまで保証しないと事業者は原発を運転してくれないと政府が認めたわけだ」。
原発のコストについては、民主党政権時にコスト等検証委員会が設置され、原発は下限値としてキロワット時当たり8.9円であり、事故対応費用次第でさらに高くなるとされた。
今回の計画案では、そうした本当のコストに関する議論が十分になされないまま、ただ原発の「運転コストは低廉」と記された。計画案を審議する基本政策分科会の場で、委員として真のコストについて問題提起した植田氏は、「議論が深まらずに終わったのは非常に残念」と話す。
実際、原子力規制委員会による原発の新規制基準導入により、原発の追加安全対策費用は兆円の単位で今も増えつつある。また、原発の8.9円の試算においては、東京電力福島第一原発事故の事故対応費用は下限値として5.8兆円が仮置きされた。だが、昨年末に自民党の原子力災害対策本部がまとめた試算では、事故賠償に5.4兆円、除染に2.5兆円、汚染土の中間貯蔵施設に1.1兆円、廃炉に2兆円などと10兆円を優に上回る見込みだ。
原発の真のコストが政府試算(8.9円)の2倍近い17円になる可能性は、日本経済研究センター(日本経済新聞社が母体で前社長の杉田亮毅氏が会長)も指摘(2013年1月)している。40年に一度の割合で福島並みの事故が起きるリスク(保険料として費用化)や、災害対策の重点地域拡大に伴う電源立地交付金の増大などを試算に織り込んだ結果であり、こうした最大リスクを考慮した試算を政府は早急に明示すべきと主張している。17円となると、コスト等検証委員会が試算した石炭火力(10.3円)、LNG火力(10.9円)はおろか、風力(陸上)の上限17.3円にも迫る。
「日本政府も本当は原発がコスト高であることはわかっているのだろう。ただ、英国政府のように、コスト高でも政策的に推進するとは言えないから、苦しんでいるのではないか」。高橋氏はこうも推察する。
長所ばかり羅列し、リスク軽視
計画案において、原子力の位置づけは、「燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく」「準国産エネルギー源として優れた安定供給性と効率性を有し」「運転コストが低廉で変動も少なく」「温室効果ガスの排出もない」と、長所ばかり並べ立てている。
一方、再エネの位置づけにおいては、「安定供給面、コスト面で様々な課題が存在する」「(太陽光は)発電コストが高く、出力不安定」「(風力は)調整力の確保、蓄電池の活用等が必要」「(地熱は)開発には時間とコストがかかる」「(バイオマスは)コスト等の課題を抱える」などと短所にもしっかり触れている。
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