エネルギー基本計画案は矛盾だらけ 原発の高いコストとリスクを軽視

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「日本はこれから原発を減らしていくのだから、本来、核燃料サイクルは推進する必要がない。40年前と違い、ウランが枯渇する心配も減っている。今回の計画案で、高速増殖炉の推進はトーンダウンさせ、高レベル放射性廃棄物の”減容化”を強調したのは、そうした批判を受けてのものだろう」と高橋氏は見る。

とはいえ、日本は核燃料サイクル政策を放棄したわけではない。「(使用済み核燃料からプルトニウムを回収する)核燃料サイクル政策は、エネルギー安保以上に本来、軍事的安保の意味合いが強い。サイクルを止め、使用済み核燃料をすべて直接処分するとなると、そうした原子力の本当の目的を消すことになると政府は考えているのではないか。ただ、そうした本当の目的を含めて、もっと正面から議論し、国民の同意を得るべきだ」(高橋氏)。

優先すべき最終処分場も先送り

東芝-ウエスチングハウス、日立製作所-GE連合を見てもわかるように、日米間には「原子力共同体」とも言われる緊密な関係がある。プルトニウムの拡散は防ぐべきだが、中国、ロシアが原子力政策を一段と推進する中にあっては、同盟関係にある日米が核燃料サイクルを含めた原子力技術を推進することは、国防上の観点からも重要との見方はある。ただ、そうした目的の是非も含めて、オープンに議論することが必要だろう。コストの低さや安全性など、説得力のない理由を挙げているエネルギー基本計画では、国民の支持は得られない。

すでに1万7000トンに積み上がった高レベル放射性廃棄物の最終処分場についても、いまだ処分地選定調査に着手できないまま、「国が前面に立って取り組む必要がある」と努力姿勢を示すのみだ。廃棄物を処理するメドが立っていなくても許されるような産業は原発だけといってもいい。産業廃棄物法でも放射性廃棄物が例外とされている。これは日本だけの問題ではないが、ドイツのように核のゴミ問題を理由に脱原発に舵を切った国もある。原発を例外視して放棄物問題を先送りする無責任体制を日本はいつまで続けるのだろうか。

「今の原子力政策は、安全性、経済性、倫理性のすべてにおいて問題がある」と植田教授は言う。日本のエネルギー政策の大方針を示すエネルギー基本計画は、数々の重大な矛盾を抱え込んだままスタートしようとしている。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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