エネルギー基本計画案は矛盾だらけ 原発の高いコストとリスクを軽視

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しかし、原発のとてつもなく巨大なリスクは、今や国民誰もが認識しているはずだ。大事故が発生すれば、放射能汚染によって広大な地域が廃墟と化し、居住や耕作、産業活動が不可能となる。国家の危機に瀕すると言っても過言ではない。

天災だけではなく、内部者を含めたテロも大いなるリスクだ。規制委の田中俊一委員長は、「いちばん怖いのは戦争のような脅威だろう」とも言う。しかも現状、原発事故の深刻な被害は周辺住民が負う一方、その最終的な責任者、コストの負担者は電力会社なのか政府なのか定かではない。こうした原発特有のリスクはもっと真正面から直視すべきだ。

植田教授は語る。「政府は新規制基準を満たした原発の再稼働を進めようとしているが、周辺住民の避難計画策定は自治体にほぼ丸投げで、住民の安全性第一になっていない。また、福島事故処理で国は”前面に出る”と言っているが、従来の電力会社の責任や費用負担、ガバナンスがどうなるかが不明のままだ」。

原発の新増設方針も暗に示唆

計画案では、原発依存度は「可能な限り低減させる」と書かれている。これは12年12月の衆議院総選挙で勝利した自民党が掲げた公約に沿ってはいる。ただ、どこまで低減するか(原発依存度は現状ゼロだが、大震災前は約3割)には言及していない。「規制委の規制基準審査の動向を見極めたいということだろうが、原発再稼働を最終的に決めるのは政府の役割。規制委の動向にかかわらず、政府が長期的な原発依存度やエネルギーミックス(電源構成)の方針を決めることはあっていいはずだ」(高橋氏)。

 注目すべきは、「可能な限り低減させる」という方針の下で、わが国の今後のエネルギー制約を踏まえ、「確保していく規模を見極める」としている点だ。これは、原発比率を将来的に一定程度維持することを示しており、前民主党政権が12年9月の革新的エネルギー・環境戦略で打ち出した「30年代の原発稼働ゼロ目標」からの大転換を意味する。

 「原発の一定規模を“確保”していくということは、原発を新増設する方針を示したことに他ならない」(高橋氏)。新増設しなければ、原発の数(現在48基)はゼロに向かって漸減するからだ。安倍政権は新増設については、「現在のところまったく想定していない」と表向き発言しているが、これはあくまで現時点の話にすぎない。もちろん、ここで言う新増設には、すでに政府がゴーサインを出している建設中の大間原発(電源開発)や、すでにほぼ完成済みの島根原発3号機(中国電力)は含んでいない。将来、一定の原発比率を確保するために、別の新増設計画が浮上する可能性が高いということだ。

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