実に面白い、海外で「日本製」の列車貸し切り タイやインドネシアで鉄道ファンが挑戦

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立て続けに2度も乗車する機会を得たが、筆者自身、貸し切り列車に乗るという経験はこれが初めてだった。同じ趣味人同士で列車をチャーターするのは、ほかでは味わえない楽しさがある。

「クレタ イスティメワ」車内でカラオケを楽しむ参加者たち。日本の比較的新しい楽曲も入っており充実している(筆者撮影)

日本でも忘年会や新年会列車などの貸し切り列車が各地で走るが、そのような列車の人気ぶりもうなずける。日常空間である鉄道で、非日常的体験をするというこのギャップに何かを感じるのだろう。

とはいえ、編成単位の電車が主体の日本の鉄道では、細かな団体需要になかなか対応できない。忘年会や新年会列車にしても、実施しているのは小回りの利く地方のローカル線や、路面電車などがメインである。

海外で列車を貸し切る面白さ

経済発展で物価が上昇しているといえども、日本に比べればアジア諸国の鉄道運賃は安い。1~2両単位で列車の増結や運転が可能であることも、貸し切り列車運転のハードルを下げている。さらに、観光客向けに団体・貸し切り専用の窓口まで設けている国も多い。

もちろん、マニアックな運転区間やダイヤをリクエストするには、海外特有の交渉術も必要になり、そのような経路を走る貸し切り列車にはチケットすら発券されない。本番ギリギリまで気が気でないのだ。

2018年にタイ国鉄ナムトク線を走った「プレステージ」。前2両、展望車(24系)と食堂車(12系)が日本人で貸し切った車両。別団体の貸し切りや一般車増結もあり豪華編成が実現した(写真:西船junctionどっと混む)

タイの貸し切り列車を企画した清水さんによると、タイ国鉄の担当者は「リクエストどおりに走らせるから大丈夫だ」とは言ったものの、実際の運転時刻を手にしたのは3日前だったという。筆者の場合、2週間ほど前から担当者に口酸っぱく催促していたものの返答がなく、揚げ句の果てに「インドネシア人鉄」の掲示板のほうにダイヤが先にさらされるという事態に……。

だがその分、実際に列車が走ったときは感無量である。

海外には線路はあれど、ほとんど列車の走らないような路線も多く眠っている。そんな区間を自分たちだけの特別列車で走るというのは、新たな鉄道の楽しみ方になるかもしれない。個人的には線路がつながったカンボジアからシンガポールまで、日本のブルートレインが走る日を密かに期待しているのであるが……。

高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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