自民党の右傾化と、日米同盟のこれから トビアス・ハリス氏が語る安倍政権(下)

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日米同盟はこれからどうなる?

――米国は安倍首相の靖国参拝についてまだ怒っていますが、そのことは日米関係にどのようなインパクトを与えますか?

私は日米同盟についてかなり楽観的だが、その一方で靖国参拝や歴史的修正主義を幅広く促進することについては、日本の立場をより不安定にすると思う。

アナリストの中には、日米関係の力学と米中関係の力学は、米イスラエル関係の力学と米イラン関係の力学に似ているという見る向きもある。日本とイスラエルは米国の外交を混乱させているという見方だ。私はこの類推を正しいとは思わない。日本はイスラエルほど独立した行動をとれるような力を持っていない。米国と日本の指導者には冷ややかな関係があるかもしれない。ただ、日米同盟の実務レベルでは、かなり安定したものがある。

安倍首相は米国が彼の靖国参拝を無視するだろうと思っていたのなら、それは誤算だった。しかし、日米同盟はこの局面を過去のものにする方法を見つけることになるだろう。日米双方とも相手の一方が欠けると多くのことができなくなるからだ。日本はより自主的な防衛能力を望んでいるが、同盟の文脈の外側でどう使命を果たすのか。そのプランづくりの兆しはまだない。日本は中国や東シナ海に関して、より大きな保証を望んでいるが、米国はつねにある程度のあいまいさを望んでいる。

――日本の防衛政策の変化についてどう評価していますか?

私は米国と中国との関係が、日本の安全保障を脅かすような形で発展していくとはまったく考えていない。それはともかく、靖国参拝は極めて近視眼的だったということを強調しておきたい。米国政府の人たちの中では、野田前首相を懐かしんでいる人たちがいても何ら不思議ではない。現在、両国が進めている具体的な防衛政策の変化は、野田政権時代に進めようとしていたものと同じであり、安倍首相が引き起こした歓迎されざるドラマさえなければ、すでに達成されていた。

日本の防衛政策の継続的な変化は重要だが、その変化は日本の安全保障を本当に拡大させるものであり、かつ、正当なものでなければならない。日本の指導者は過去の帝国主義に逆戻りさせるために防衛政策を練り直しているのではないかと、近隣諸国があおりたて続けるとすれば、日本の防衛政策の変化は正当とはいえない。

安倍首相は、靖国参拝や日本の過去にもっとポジティブな光を当てようとすることは、日本の国の防衛を強化するための前提条件だと確信しているようだ。実際には、その真反対が正解だ。日本は帝国主義の過去から遠ざかれば遠ざかるほど、これから強い軍隊を築き上げるのに、もっと気楽に取り組める。安倍首相が巻き起こした論争をもってしては、これから日本の防衛政策を継続的に強化していくことが、日本を安全な国にすることにはならない。

ピーター・エニス 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Peter Ennis

1987年から東洋経済の特約記者として、おもに日米関係、安全保障に関する記事を執筆。現在、ニューズレター「Dispatch Japan」を発行している

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