安倍首相が見習うべきは、岸信介より佐藤栄作 消えない第1次内閣のトラウマ

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安倍首相の宿願は憲法改正だが、現状の政党地図のままだと、達成まで最短で3年を要する。衆参各議院の総議員の3分の2という憲法96条の改憲案発議の壁があるからだ。

改憲勢力の自民党、日本維新の会、みんなの党の3党合計で、衆議院は3分の2の320議席を超えているが、参議院は3分の2の162に20議席足りない。昨夏の参院選での3党の当選者数は計81だったから、次の2016年の参院選で同数の議席を獲得すればクリアする。安倍首相が改憲に挑むとしても、16年の参院選の後で、おそらく早くて17年だろう。

長期戦覚悟となるが、憲法改正という大事業に挑戦するなら、「理念先行・対決路線・猪突猛進型」の安倍流でなく、「現実直視・対話路線・どっしり型」の政権運営を心がける必要がある。靖国参拝のような自己満足と自陣営向けの選択にこだわるようでは、大事業達成は見込めない。昔から祖父・岸信介元首相を手本に「闘う政治家」を標榜するが、見習うべきは大叔父・佐藤栄作元首相だろう。日韓基本条約調印、オリンピック後の不況克服を実現した後、いざなぎ景気に乗って長期政権を築き、沖縄返還という大事業を達成した。

安倍首相は改憲実現を唱える一方、いま憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使制限撤廃を目指している。菅官房長官も「憲法問題とは切り離して」と語る。今年夏までに閣議決定を行い、秋の臨時国会で関連の自衛隊法などの改正を行う計画のようだ。

急いでこの問題に挑むのは、東アジアの安全保障の変化や日米関係への配慮だけでなく、好調とはいえ、政権がいつまで持つかわからないという不安が同居しているからではないか。長期政権で改憲実現という夢を追いながら、その実、在任1年に終わった第1次内閣のトラウマが消えないのかもしれない。それとも改憲への民意の盛り上がりの乏しさを見て、「戦後レジームからの脱却」に関係する持論のテーマは、できるときにできることから、という短期決戦型の戦略を選択する気になったのか。

(撮影:尾形文繁)

塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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