今回登場するのは、メディア論を専門にするジャーナリストの菅谷明子さん。単身渡米して大学院へ行き、メディアに関する取材を続け、今も版を重ねる『メディア・リテラシー』や、ニューヨーク公共図書館をルポした『未来をつくる図書館』で知られる。ハーバード大学のニーマンフェローという、世界のジャーナリストがあこがれる環境にも身を置いた。
夫は、デジタルメディア研究で世界を牽引するMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ教授で副所長の石井裕さん。メディアラボからヘッドハントされ、1995年にNTTの研究所から転身。「タンジブル・ビッツ」という新領域を切り開き、その分野で世界的権威に。アメリカの大学にはさまざまな立場の研究者がいるが、MITのようなトップスクールで、終身在職権(テニュア)を取得するのは極めて困難で、世界的な業績が必要とされる。一家はMITやハーバードがある大学街で、ボストンの隣ケンブリッジに住む。
文字どおり、世界級のキャリアを持つ両親だから、きっと、子どもにはすごい英才教育をしているに違いない。そう思って話を聞き始めたら、意外な答えが帰ってきた。「人生は長いので、大学や就職といった“点”ではなく、生涯を通じて必要な、知的好奇心を持ち学び続ける楽しさや、自己肯定感を育んだり、努力する大切さを体感させています」。
日本では当たり前のことにも、価値を見いだしているのも予想外。明子さんが、長女(9歳)と、次女(6歳)を放課後に校庭で30分遊ばせるのは、クラスや学年の違う子どもたちと触れ合う機会を増やすため。「子どもがひとりで町を歩けないのは、日本と大きく違うところ。13歳未満の子どもだけでの留守番も違法です。子どもの遊びも、大人なしでは成り立ちません。日本は子どもだけで勝手に遊んだり、道草しながらいろいろな体験ができるのでうらやましいです」。
習い事に求めること
お手伝いもさせる。「アメリカは、大人と子どもの分担が明確で、料理や掃除なども日本ほどさせません。日本のように、暮らしを営むのに必要なことを、子どもの頃から学べるのは、とても貴重に思えます」。むしろ、日本ならごく普通の母娘の様子だろう。
習い事は、ガールスカウトやブッククラブ、歌にピアノといった具合だ。アメリカっぽさを感じるものもあるが「うちもそんな感じ」と思う小学生の親は多いのではないか。何を習うかは子ども自身が決め、本当にやりたいものだけをやらせる。ここに至るまでには、苦い経験もあった。
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