「ハンバーグに卵入れない」斬新レシピ本の中身 定番料理の作り方覆す「新しい料理の教科書」

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もう1つの理由は、昔書かれた料理本の知識が、いまだに使われていることに対する疑問があったことだ。先のハンバーグに卵を入れるのは、50~60年前のひき肉事情に合わせたもの。また、そうめんを茹でる際、湯が吹きこぼれそうになったら冷水を「びっくり水」と称して入れるレシピは多いが、それは薪を使うかまどで料理していた時代の知恵で、コンロの火力を簡単に調節できる現在は、火を弱めればいいだけとのことである。

樋口氏がこういった問題点を指摘できるのは、これまで古今東西の大量のレシピを含む文献を読み込んできたからだ。

「エル・ブジ」にインスピレーション受けた

もともと読書家の樋口氏。中学生のとき、辻調理師専門学校の創設者、辻静雄氏が書いたフランス料理の本に感動し、料理の道へ進もうと決めた。農業高校に進学して食品化学を学び、服部栄養専門学校を卒業後、料理の世界に入った。その間、調理科学や栄養学も勉強している。

中学生のとき、辻静雄氏が書いたフランス料理本に感動し、料理の道を目指したという樋口氏(筆者撮影)

19歳で社会に出たのが2000年。ちょうど、新しい料理法を考案した伝説のレストラン、スペインのエル・ブジが料理界を揺るがしていた。「エル・ブジは、それまで勘と経験の世界だったプロの厨房に、調理科学をどんどん入れ、レシピを公開した。長い修業を積まなければ独立できなかった料理人が、若いうちから自分の店を持てるようになった」と樋口氏。

樋口氏も23、24歳のときに独立している。一方で料理を中心にした小説も書く。料理家になったのは2013~2017年、母校の服部栄養専門学校のサイトで、文献を調べてレシピを発表する仕事を行ったことがきっかけだ。

一つひとつの仕事が、『新しい料理の教科書』の伏線になっている。2017年に出した、全国各地の生産者を訪ねたルポ『おいしいものには理由がある』の取材もその1つ。納豆生産者はコンピュータで制御しながら大豆を茹で、昔ながらの方法で発酵させていた。よりよい製品を効率的に作るために、最新技術と伝統技術を上手に組み合わせていると知ったことも、慣習を見直しレシピを刷新するきっかけになっている。

樋口氏は、まずブログのnoteで連載した後、『新しい料理の教科書』出版に至った。現在も続けるその連載のフォロワーは、約3万2000人にも上る。その多くは20~30代の男性だ。

彼らの人物像を「奥さんに言われて料理せざるをえなくなったが、なぜそうやるのか根拠がわからない、レシピのプロセスに確信が持てない。そこでインターネットで検索し、僕の連載でプロセスの根拠を解説しているのを読んで、納得できた」と樋口氏は分析する。「ツイッターを見ていると『驚いた』という声が多いし、『料理が楽しくなった』と言われるとうれしいですね」と言う。

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