阪急の観光列車、普通運賃だけで「驚きの内装」 大胆な戦略の裏には綿密な計算がある?

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沿線に著名な観光地を抱える、関西ではないある大手私鉄の社長は「所要時間が30分~1時間程度では、観光列車を導入するには短すぎる」と話し、観光列車の導入に否定的だった。その意味において、雅洛は鉄道業界の常識を覆す阪急の挑戦というべきか。

1編成目の「京とれいん」(写真:阪急電鉄)
1編成目の「京とれいん」の車内(写真:阪急電鉄)

阪急の「京とれいん」は雅洛が2編成目である。1編成目は2011年3月に運行開始。通勤車両にもかかわらず、新幹線や特急列車のデッキのようなエントランスを設けて高級感を出した。

座席は寺院、茶室などに使われる京唐紙の伝統柄をモチーフとしたデザインで、京都の町家をイメージした。

阪急の担当者は、2編成目投入にあたって「さらに京都らしさを感じさせるデザインを目指した」と語る。2編成体制になったことで、日中は1時間おきに走るようになった。

京阪プレミアムカーに対抗?

阪急が狙うのは、観光客に「京都に行くなら阪急の電車で」という意識を持ってもらうことだ。大阪と京都を結ぶ移動手段はたくさんある。JRなら新幹線と在来線の両方がある。私鉄では阪急のほかに京阪電車も走っている。ライバルは多い。

近年、大阪―京都間の旅客取り込みに熱心なのが京阪電鉄だ。2017年8月に大阪(淀屋橋)と京都(出町柳)を結ぶ豪華な指定席車両プレミアムカーを投入した。1編成まるごとプレミアムカーではなく、特急の各編成に従来車を改造したプレミアムカーを1両ずつ組み込んだ。

同区間の乗車には500円の特別料金を払う必要があるものの、グリーン車のような乗り心地や専属アテンダントの乗車が好評を博しており、2020年度にはさらに6両が新たに投入される予定だ。

その意味では、阪急による雅洛の投入は、京阪のプレミアムカーに対する対抗策ともとれる。京阪やJRから利用者を奪うのが狙いだとしたら、雅洛の製造は採算度外視ではなく、集客増を前提とした収支計算がある程度は行われているはずだ。座席がつねに満席の状態で、その乗客全員が京阪やJRから転移したと仮定すれば、普通運賃だけで投資額を回収するのは不可能ではない。追加料金不要という、一見すると大胆にみえる施策の裏には綿密な計算があるのかもしれない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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