人手不足は「労働条件が酷い」会社の泣き言だ 移民受け入れの前に「賃上げ」を断行せよ

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安い賃金で人を雇い、その人の能力以下の仕事しかさせないのは、無駄以外の何物でもありません。ただ、経営者としては、無駄かどうかはあくまでも給料とのバランスで決まります。年間150万円しか払っていない人にお茶を入れてもらったり、銀行に行ってもらったりすることは無駄に感じませんが、その人に300万円を払わないといけないなら、やってもらう仕事の内容をもっと考えます。

このように「無駄に使ってきた日本人労働者が減るから人手不足だ」と考えるのは、あまりにも短絡的だと言わざるをえません。なぜなら、仕事を効率化して、より生産性の高い仕事に変えるという選択肢もあるからです。生産性向上による緩和策を打てば、その分だけ人手不足は解消されます。

当然、完全には解消されませんが、それでも今言われているほどには、人手不足が深刻にならないのは確実です。

「外国人労働者受け入れ」の裏にある経営者の甘え

このように人手不足を解消するためにやるべきことは山積しているのですが、一方で、最も安易で危険な外国人労働者の受け入れ枠の拡大が実現しようとしています。

政策を実行に移すにあたって、政府は自分たちの意図だけではなく、企業の経営者がどのようにこの新しい制度を使うか、キチンと想定しておかなくてはいけません。

今回の場合、なぜ企業は人手不足を理由に、外国人労働者の受け入れ枠の拡大をいきなり訴えてきたのか、政府はしっかりと認識しておかなくてはいけません。

先述したように、日本企業の多く、特に規模の小さい零細企業は優秀な人材を安い賃金で雇うことを企業存続の原動力にしてきました。生産性の水準を考えると、もったいないくらい優秀な人材を、安く雇うことができたから、普通であれば存続することが困難な企業でも生き残ることが可能だったのです。

日本の社長たちは、この恩恵を長い間受け続けてきました。このような背景があるためか、会社を支えてきた安く使える優秀な人材が減ってしまうにもかかわらず、生産性向上の努力をする気のない経営者が少なくありません。

こういう経営者なら、少なくなる日本人に代わって、低賃金でも過酷な労働条件で働いてくれる外国人の受け入れを求めてきても、不思議ではありません。

より高い生産性を達成するのが難しい、小さい規模の会社の社長たちは特にそう考えるはずです。

こうした企業経営者の声に呼応するように、先日、外国人労働者の受け入れを拡大するための出入国管理法改正案が国会を通過しました。

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