日本の金融危機と教訓~根本的問題への迅速・大胆な取り組みが肝要《スタンダード&プアーズの業界展望》


金融機関格付部
マネジング・ディレクター 根本直子

日本の全銀行が1992 年度から2007 年度までに計上した不良債権損失の合計は約99兆円である。また、不良債権問題の解決のため政府が投じた資金(日銀による信用供与などは含まない)は47 兆円と、GDP(同期間の平均値)の9%に相当する。IMF(国際通貨基金)がサブプライム・ローン問題からの損失を世界全体で1兆4,000 億ドル(約140 兆円)と推計(2008 年10 月時点)しているのと比較しても、日本で計上された不良債権損失額は一国のものとしてはかなりの規模である。日本の金融危機の経験をベースに、現在のグローバルな金融危機において、何をすべきかを考えてみたい。

時間のかかった日本の問題解決

日本ではバブル崩壊後に不良債権問題が表面化してから解決するまでに12 年という長い年月を要した。日本での政策が早期に十分な成果をあげられなかった理由の第一は、政府と金融機関の双方で、正確な問題把握と抜本的な対応が遅れたことである。問題の把握が遅れた要因として、劣化の進んだ貸し出しや担保価値について時価が明確でなかったこと、また過去に多額の不良債権が発生したことがなく、銀行、当局ともシステムやノウハウ蓄積が十分でなかったことなどがあげられる。

第二に政策が小出し、漸進的であり、抜本的な対応が遅れた。大胆な政策がとれなかったのは、そもそもの財政赤字に加え、低金利により財政や金融政策の柔軟性を欠いていたこと、政権交代が頻繁であったことなどが挙げられる。日本の慣習として全体のコンセンサスをとろうとする傾向があることも影響した。「バブルに踊った不動産業者と銀行をなぜ税金で救うのか」という一般の国民感情が根強かったことも一因である。

不良債権問題が一般的に認知されたのは1992年であったが、金融関連法が制定され銀行に公的資金による資本増強が行われたのは1998年以降であった。1996 年には計13 兆円もの負債を抱えた住宅金融専門会社(住専)7 社が破たんしたが、出資者であるメーンバンクが損失を主に負担した。住専の損失処理にあたっては、公的資金6850億円が使用されたが、国会での反対意見が強く、そこでの経緯が、銀行への公的資金の投入を遅らせた面もある。第一回の資本注入は、対象行選定の基準が不明確で、規模(1.2 兆円)も少なかったため、政府は1999 年に総額7.5 兆円の公的資金を銀行に投入した。投入された資本は、金額も増額され、劣後債から優先株と資本性が強化されたとはいえ、銀行の抱える潜在的な損失に対して十分とはいえなかった。 資本を拡充した銀行は、いったんは不良債権の処理を加速させ、大手行の与信費用は1998年をピークにやや減少した。しかしその後、米国でのIT バブル崩壊の影響で日本でも株価が下落し、2001 年にはバブル後最安値をつける事態となった。株価の変動は邦銀の資本基盤に大きな影響を与えた。2001 年度の大手行の株式評価損は4.5 兆円に達し、資本不足が懸念された。長引く不況を反映して新たな不良債権が増大し、銀行は再び赤字を計上した。その後、竹中平蔵金融相による、金融再生プログラムの実施、りそな銀行、足利銀行の国有化を経て、2004年に金融システムは安定性をとりもどした。金融庁や銀行が、不良債権の減少や情報開示の改善などで、金融システムの信頼回復に努めたことに加えて、輸出の回復と地価の反転という、外部環境の改善が大きく寄与した。

第三に、不良債権問題の根底にある、事業会社の再生への取り組みが遅れた。邦銀の不良債権問題のきっかけは、1990 年代初めの地価、株価の急落(いわゆるバブルの崩壊)だったが、それに加えて、日本経済が高度成長から低成長に移行する過程で、企業部門が過剰負債や過剰設備を削減する必要に迫られたという事情もあった。

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