津田沼駅前「BOOKS昭和堂」、閉店までの舞台裏 ミリオンセラーを生んだ書店員の葛藤とは?

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だが、とくに2000年代に入ってからは、この規模の書店が続々と閉鎖している。いまの主流は、贅沢なデザインを施した空間に大勢の客を取りこむ1000~2000坪級の超大型店か、1~2人でも運営できる極小規模店である。本が次第に売れにくくなっていくなかで、ある程度の運営スタッフを必要とする中規模店は利益を確保しにくい。BOOKS昭和堂の場合は、社員4人、アルバイト10人ほどの人員体制だったという。

オープンは1986年。けっして短い営業年数ではない。月並みな表現になるが、時代の変化とともに役割を終えたと見るべきなのかもしれない。

閉店を1週間後に控えたBOOKS昭和堂を訪れた。木曜の夜も、土曜の昼下がりも、すくなくとも僕が滞在した時間、客は少なかった。もっとも、最奥の児童書売場では子どもたちが床にしゃがんで絵本を開き、その母親たちものんびりと雑誌をめくっていた。地域の人たちにとって気軽に立ち寄れる書店だったことをうかがわせる光景だった。

閉店の理由は、業績の低迷だという。昨年1月から店長を務めた村山智堅氏は「4~5年前から売り上げの低下が顕著になった」と話す。

「手をこまねいていたつもりはないんです。アウトレット本(=出版社が再販指定を外して廉価販売する本)を扱ったり、ゆっくり過ごしていただけるベンチを置いたり、文具も扱ったり。ただ、肝心の本の売れ方が弱くなった。注目度の高い新刊が出ても3~4日で動きが止まってしまう。こちらからの仕掛けも、なかなか伝わらない。私の力不足も認めなくてはいけない。全国には、同じ状況で奮闘している書店がありますから。でも現場を預かる者の実感として、閉店の判断はやむをえないと思っています」

村山氏に、かつて一緒に働いていた木下さんのことを、同じ書店員としてどう思っていたのか、きいてみた。

「考え方の違う人でした。私は、本屋は特別な商売ではない、世の中にある多くの商いの1つと考えてきました。木下は、本屋は本をどう扱うべきかを、深く突きつめて考えていた。だが、狭すぎるのではないか、とも思っていました」

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