抜本解決には力不足 抜け穴だらけの住宅新法

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欠陥住宅被害者の補償金を確保する新法が成立した。「一歩前進」と評価する声も上がるが…。(『週刊東洋経済』6月16日号より)

 欠陥住宅被害の再発を防止する新法が、このほど成立した。

 名称は「特定住宅瑕疵担保責任履行確保法」。2009年夏をメドに、新築住宅の売り主などに対し保険加入や保証金の供託を義務づけることで、欠陥があった場合の補償資金を確保することが柱だ。

 元1級建築士・姉歯秀次被告の不正行為による耐震強度偽装事件では建て替えを余儀なくされたマンションもある。その際、購入者が建て替え費用の負担を強いられる悲劇が発生。売り主であるヒューザーが破綻したためだ。“姉歯物件”の一つ、「グランドステージ住吉」(東京都)の管理組合が今年2月にまとめた試算では、追加負担は1戸当たり1800万~3000万円にも上った。

 新法は売り主が破綻しても被害者が補償金を受け取れる仕組み。「保険金の支払いを抑えるために保険法人が物件検査を厳密に行う。欠陥を予防する効果も期待できる」と、日本弁護士連合会で消費者問題対策委員会の幹事を務める河合敏男弁護士は一定の評価を下す。

 しかし、抜け穴も多い。補償範囲は構造躯体(骨組みにあたる部分)に欠陥がある場合や、雨水の浸透などに限定される。シックハウスや地盤沈下などの問題は対象外だ。

 瑕疵を立証すること自体も難しい。専門家は建築物のクロスを一度剥がして検査しなければならないなど、相当な困難を伴う。

 そもそも、欠陥を根本から防ぐには工事現場の監理を行うべきだろう。が、「新法はその肝心な部分がすっぽり抜け落ちている」(河合弁護士)。日本では工事途中の検査をすべきかどうかは、あくまで自治体の自主判断。米国では州または市の制度により、すべての建築物が15回ほどの検査を義務付けられている。

 耐震強度偽装事件の影響で、購入者自身が第三者に建築物の監理を依頼するケースが増えた。個人向けに不動産コンサルティングを行ってきたさくら事務所では、昨夏まで月5件にすぎなかった工事途中の検査依頼が、今では30件にまで増えたという。このような購入者側の意識改革も、被害の再発防止には必要だ。とはいえ、新法が十分に機能しなければ元も子もない。“姉歯の悲劇”に終止符を打つためには、さらなる法整備が欠かせない。

(書き手:藤尾明彦)

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