値上げ続く学校制服、知られざる業界「体質」 旧態依然の構造、業者と教員の癒着も残る

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昨年11月には、公正取引委員会が動いた。公立中学校の制服の取引実態に関する異例の調査を実施。学校に対し、メーカーや販売店の間での競争を促すように提言した。取引企画課の担当者は「競争を通じてより制服が安くなる方法を模索してほしい」と強調する。

重層的な流通構造

複雑な流通構造も、高コストの一因となる。

制服素材の代表ともいえるニッケの生地は、多くのメーカーが専門商社経由で購入する。その生地を基にメーカーが作った制服は、地元の販売店を通して生徒の元に行き渡る。各過程で発生するマージンの一部が、制服の価格に上乗せされていく。

この重層的な構造に一石を投じたのが、今年3月まで奈良市立一条高校の校長を務めた、リクルート出身の藤原和博氏だ。藤原氏は同校が来年度から導入する新制服を決めるに当たり、業界4位の制服メーカー・瀧本と連携。販売店を通さずネットで販売する仕組みを整え、仕様も見直したことで、従前の制服から約2割の値下げを実現した。

ネット直販では生徒各自で採寸を行い、自由な時間帯に注文できるほか、メーカー側にとっても、販売店に支払うマージンや、採寸にかかる人件費を省ける。販売店からの反発は当然あったが、サイズの相談など商品に関するアフターサポートの面で協力を促す。藤原氏は「販売手法を少し見直せば価格は確実に下がるという手本を見せたかった」と振り返る。

自治体の間では、教育委員会が主導して現状の契約の見直しを促す動きも出始めた。神奈川県海老名市では保護者負担の軽減策を検討する過程で、すべての市立中学校の指定ジャージーを同一業者が作っていることが判明。参入業者を増やして低価格化につなげるため、今夏から市立の1校でコンペを開始した。

埼玉県は昨年度、県立高校の制服の価格や契約状況を調べ、結果を一覧で公表した。業者との契約内容の精査や販売価格を下げられるかどうかの検討の有無については、今年度も調査の実施を検討している。

「制服の契約事務は慣習化されてしまい、契約書が存在しないことすらある」。学校関係者の一人はそう明かす。だが、生徒にとって制服は必需品であり、その価格が青天井であってよいはずはない。業界の構造的課題を慣習と片付けず、根本から見つめ直す必要がある。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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