「短編アニメ映画」の公開が相次ぐ本当の理由 ポノック劇場、詩季織々…製作経緯に共通点

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そして、「最初の依頼の際は弊社の制作ラインが空いていなかったこともあってお断りしましたが、彼とはその後もいい関係を続けていたんです。だから『君の名は。』の完成後はどうしようかとなったときに、リ監督が送り続けてくれていたラブコールに応えることにしたのです」と明かす。

『詩季織々』の中の「小さなファッションショー」は、CGチーフとして新海誠作品を支えてきた竹内良貴が監督を務める ©「詩季織々」フィルムパートナーズ

これまでの新海誠作品を支えたCWFの美術、CG、撮影スタッフが携わるという条件で制作された作品は、リ監督による、新海誠作品への愛情が随所に表れたものとなった。

同社の稻垣康隆プロデューサーも「あくまでビジネスとして、この作品を成立させようとするのではなく、リ監督の情熱がすべてだった。もちろんHaolinersもアニメの制作会社なので、自分でアニメを制作することができる。でも背景美術をはじめ、うちのスタッフと一緒に作りたいという彼の熱意が原動力となったことは間違いない」という。

イシャオシン監督の短編作品、「陽だまりの朝食」は、北京で働く青年シャオミンが、故郷・湖南省で食べていたビーフンの味を思い出す内容 ©「詩季織々」フィルムパートナーズ

当初の企画では劇場上映は想定せず、「1話10分ほどの短編を12本制作し、ネットで配信したい」というのがHaoliners側の提案だった。しかし、12本の短編を同時に作るのは物理的に難しく、短い上映時間では、ちゃんとストーリーを見せていくCWFの得意のスタンスにはならないという問題点が挙がった。

そこで両社で打ち合わせを重ねる中で、数人の監督たちによるオムニバス短編を作ろうという形になった。さらに、東京テアトル配給による特別上映も決まった。それと同時に、日本、中国以外の全世界では、動画配信サービスNetflixでも配信がスタートしている。

疲弊するアニメ業界に作る場を提供

稻垣プロデューサーは「今、アニメ業界は疲弊している。そんな中で、短編を作ることで、アニメーターに作る場を提供できるということが魅力的だった」と振り返る。

短編アニメを作るメリットとして、普通のテレビシリーズをやるよりも安く済むという点が挙げられる。

『詩季織々』のプロデューサーを務めた、コミックス・ウェーブ・フィルムの堀雄太プロデューサー(右)と稻垣康隆プロデューサー(左)(筆者撮影)

「一般的に、1クールのテレビアニメ制作費は2億以上、劇場公開作品だと2~3億と言われています。でも、短編アニメの場合はもっとコンパクトな予算や制作規模で作ることができ、それ故に新しい監督をデビューさせやすい。それに弊社が制作費を出せば、作家性を担保できます。作ったら終わりではなく、その後の展開も含めて考え、作家さんにもきちんと還元するというところまで見据えています」(堀プロデューサー)

一般的に日本のアニメ制作において動画・仕上げを海外に発注するのは珍しいことではないが、日本人スタッフの人材育成という面では、「成長する機会を奪ってしまっているのでは」ということは以前から指摘されてきた。

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