「フランス料理に日本酒」が増えている理由 ワインが苦手な「料理の7要素」とは?

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グザビエ・チュイザ氏(写真:Kura Master)

さて、こうした背景の中でKura Masterというイベントが始まったきっかけは、コンクールの審査委員長で、パリで最も格式と歴史を持つオテル・ド・クリヨンのシェフソムリエを務めるグザビエ・チュイザ(Xavier Thuizat)氏が、ペニンシュラホテルのシェフソムリエだった頃のこと。ホテル内の広東料理店でオススメのワインを尋ねられ、さまざまな組み合わせを試してみたものの、伝統的フランス料理とはまったく異なる構造で味が構築されている中華料理とワインはなじまないと前述の宮川氏に相談したことがきっかけだった。

チュイザ氏の「シェリー酒ならば合うが、厳密に言えば蒸留酒を含んでいる。アルコールの穏やかな醸造酒で合わせたい」という考えに対して、宮川氏が日本酒を勧めたうえで、2016年に日本酒を知るための旅へと誘い、日本の蔵元などを紹介したのだ。その背景には、前述したようにフランス料理に使われる野菜の種類・量がともに増えていき、味を構成する要素が変化したことでワインと合わない皿が増えてきていることもある。

多様な日本酒、およびその造り手と交流を深めたチュイザ氏は、新たな活躍の場で日本酒を生かしたいと考えた。実は彼は2017年夏、4年もの長期休業を経て壮麗なる歴史とモダンさを兼ね備えた新しいホテルへと生まれ変わったオテル・ド・クリヨンのシェフソムリエとして迎えられることになっていた。

その彼が、伝統とモダンが融合する新たなコンセプトのホテルにある多様なレストランで、フランス人が楽しむための“フランス人が選ぶフランス人のための日本酒”を求め、宮川氏にコンクール開催を持ちかけて実現したのが「Kura Master」である。

フランス全土に日本酒が広がる可能性

審査するのは最高級五ツ星ホテルをはじめ、フランス美食界をリードする三ツ星や二ツ星レストランで活躍するソムリエ、シェフ、それに料理研究家たちだ。初回の2017年は35人、第2回となる今年は料理学校関係者やワイン専門店オーナーなども加わり、またパリ以外の地域からも多くの審査員が参加。58人が集まった。全員がフランス人であり、フランス料理のエキスパートだ。しかも、半数は地方都市からの参加。すなわち、パリだけではなくフランス全土に日本酒が広がる可能性を秘めている。

このように一気に拡大したのは、“クリヨンのチュイザ氏”が呼びかけたからということもあるが、昨年のコンクールが評判を呼び、業界内でKura Masterに参加すればフランス料理に合う日本酒が見つかるとの認識が広がったからにほかならない。審査への参加希望は多く、来年は少なくとも80人以上の規模になる見込みだという。

その影響は、たとえばフランスで唯一女性シェフとして三ツ星を持つアンヌ・ソフィ氏のラ・メゾン・ピックが、提供する料理との相性を見直したうえで新たに日本酒リストを作成したり、シャングリ・ラ ホテル・パリのラベイユで“すべての料理を日本酒だけで合わせる日本の夕べ”が開催されるなどの動きを生み出した。

日本人主体で始まったコンクールではないだけに、目的は明確。彼らは本気でフランス料理の中に、日本酒を取り込み、ワインリストの中に日本酒を組み込み、さらにはワインリストとは別に“日本酒リスト”を作ろうとしているのだ。

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