日本人が知らないあの「ロブション」の素顔 日本から学んだフランス料理界の巨匠

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年4、5回日本を訪れていたロブションだが、その情熱が衰えることはなかった。来日中は、日本のビジネスパートナーが運転するロールス・ロイスで移動し、王様のようなもてなしを受けるのだが、彼自身は謙虚であり、うぬぼれることがないようにつねに注意を払っていたという。

忘れられないのが、2007年11月18日――ミシュランガイドが発売される前日――の朝のことだ。彼のもとに電話で、自身が経営する3つのレストランが計6つの星を獲得したという知らせが入った。すると、若いシェフが彼のもとへやってきて、興奮を抑えきれない様子で「師匠、星を6つとはすばらしいです!」と賞賛した。ロブションはこの青年に目を向けて笑顔を浮かべ、「すばらしい、よな?」と彼の言葉を繰り返した。

興奮する若いシェフをいきなり平手打ち

そのときだった。自身の情熱をこの若いシェフと分かち合うどころか、まるでグツグツと煮えたぎる鍋の火を消すかのようにこのシェフを思いっきりひっぱたいたのである。突然のことだったが、これはロブションなりに、痛い思いをさせてでも、名声に自分が左右されることのないように教えたかったがゆえの行為なのだ。

「ミシュランの星を獲得すると、まるで宝くじに当たったかのように愚かな行動に出るシェフはたくさんいます。そのほとんどが最初にやることと言えば、レストランを改修して借金を作るのです。でも、改修をすることでレストランの魂が失われます。そうして、数年後には破産してしまうのです」と、元ミシュランガイドの社員は話す。

ロブションは「星をとって当たり前」といった高飛車な態度を取ることは決してなく、自身の門下生たちにも同じ姿勢を持つように徹底した。ロブションの日本の従業員は「スペインにある彼のアパートを訪ねたことがあるが、なんともシンプルな場所でした」と話す。

ロブションは日本人の労働観を高く評価していた。料理というものは、同じレシピを数多く、何度も完全に再現する芸術で、それを世界一完璧に実践していたのが日本人のシェフたちだった。彼らはフランス料理のレシピも、ほかのどの国民にもまねができないほど完璧に再現し、それはフランス人シェフにはまねができないことだった。

一方、厨房では「行きすぎた」指導が行われることもある。これは日本に限ったこととは言えないが、それでも日本のレストランで働く数多くの外国人シェフたちは調理場における日本人同士の暴力にショックを受けることもある。

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