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糸井重里と青野慶久が語る仕事を面白くする組織

國貞 文隆(ジャーナリスト)
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私たちが今会社で働くとき、一番欲しい充実とはいったい何だろうか。それはおカネなのか、ステイタスなのか、それとも仲間との一体感なのか。考えれば考えるほどわからなくなってくる。
 でも、一つだけ確かなのは仕事自体の面白さではないだろうか。仕事が面白くなければ、たくさんおカネをもらっても、どんなにステイタスが高くても、仲間がいてもつまらないはず。
 では、どんな組織であれば、仕事はもっと面白くなるのか。今回はスペシャル版として、サイボウズ社長の青野慶久さんが「ほぼ日刊イトイ新聞」の糸井重里さんを訪ねて、ともに仕事を面白くするチームや組織づくりについて探ってもらった。

糸井重里
1948年生まれ。コピーライターほか、作詞、小説、エッセイ、ゲーム制作など様々な分野で創作活動を行う。98年『ほぼ日刊イトイ新聞』を開設。

会社に向いてないと思った人間がどんな組織をつくったのか

青野 糸井さんはコピーライターというフリーランスの世界から経営者になられ、どのような考えをもとに「ほぼ日」の組織をつくり上げられたのでしょうか?

糸井 まず前提として、組織についてばかり考えているところがあって、今ではライフワークの1つのようになっています。でも決してプロではなく、僕は人よりちょっと余計に考えているだけであり、研究中という感じでしょうか。いわば、「門外漢で知りたい盛りの人間が今いろんなことを考えています」と言うのが精一杯なのです。

青野 意外なお言葉ですね。糸井さんは働き方なんて好きにすればいいという価値観で、ずっと来られたような印象がありました。組織について考えられるようになったのは最近ですか? それともずっと以前からですか?

糸井 蓄積ですね。いろんな人に言っているのですが、僕は働くことにまつわる苦行っぽい感じが嫌で、おおもとは働きたくなかったんです。
父親が自由業でしたから、二日酔いだったら平気で遅く出掛けていく。そういう暮らしを見ていたものですから、そうじゃない暮らしが怖く思えたのです。

 僕は学生時代、ずっと遅刻していたんですね。授業も勉強ができているときは面白いけれど、ちょっとできなくなると退屈で仕方なかった。勉強するだけでこんなに大変で、怒られるんだったら、会社に行ったらおしまいだ、僕には向いていないと思っていました。

 小さい頃からそう思っていて、どんどん劣等生になっていきましたから、これはもう無理だなと。でも、植木等の映画に「ニッポン無責任時代」というサラリーマンを戯画化した映画がありまして、それは一生懸命仕事をやらないんだけど、うまくいっちゃう話なんです。憧れました。ただ、映画のように上役の顔色をうかがってのゴマスリは結局、いろんな個人的政治の連続なんですね。今思えば、違うんです。

 実際に仕事をするようになったら、仕事がそんなに嫌ではなくなった。フリーで仕事をしている間は、ボヤいてはいましたけど、案外楽しかったのです。

 そして、この「ほぼ日」をやろうと思ったとき、今度は人の手を借りないといけないし、自分も手助けをしなければいけなくなった。いわば、第二の人生を歩み出すことになって、組織について考えるようになったのです。


青野慶久
1971年生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工に入社。97年サイボウズを愛媛県松山市に設立し、取締役副社長。2005年4月に代表取締役社長に就任。

人はつまんなくなったら辞めたくなる

青野 「ほぼ日」のスタートが1998年ですから、もう15年ですね。

糸井 働くって毎日やることなので、サボっているとやっぱりパフォーマンスは落ちますし、力を出し切れないでいると精神衛生的に良くない。だからこそ、どうすれば楽しく、気持ち良く仕事ができるかをずっと考えてきました。

青野 それは自分の気持ち良さだけではなくて、一緒に働いている人の気持ちも、ということですか?

糸井 もちろん気になります。もともと自分が働くことが嫌いでしたから、そろそろみんなも嫌いになっているのではないかと考えるようになりました。

青野 その不安感はすごくよくわかります。

糸井 それは今でもありますね。僕はインターネットが面白くなって「ほぼ日」をやり始めたんです。当時の自分の書いた文章を読んでいると「いま仕事が流行っている」という言い方しているんですね。いろんな遊びはあったけれど、今働くのが一番面白い。急にそんなことを言い出したのです。

青野 面白い言い方ですね。

糸井 ところが、人にそれを押し付けるわけにはいかないんです。組織が面白く一緒に遊ぶようにできていればいいのですが、人に仕事を押し付けちゃいけないと思いながら、自分は徹夜をしているところがありました。

 当時は下働きから社長業まで全部やっていましたね。昔の自分なら考えられないと思いつつ、みんながつまらないと思っていないかといつも考えるようになっていたのです。

 でも、だんだん人が増えてくると、「ほぼ日」も15年ですから、瞬発力で面白がって仕事はできるんですけど、やっぱり何でもないときでも気持ちは健康でいたいわけです。

 そこで、気持ちを健康にしていながら、働いたり休んだり、面白がったり嫌がったり、この循環をつくるにはどうすればいいんだろう、と考え続けました。

 その過程は、目隠しして歩いている状態をずっとやってきたという感じでしたが、自分の核心にあったのは「人はつまんなくなったら、辞めたくなる」ということでした。「一生懸命やるヤツの背中を見ろ」なんていうのは絶対無理。そんな平凡な人間のだらしのない状態が当たり前で、それでもこんなにできたという循環をどうつくるのか。そういう問題の立て方だけがいつも一緒でしたね。

青野 がんばって働くことが前提じゃないんですね。

糸井 面白ければ、徹夜で麻雀している人はつらいとは言わないですよね。心と体のバランスが良くて、「あいつ、面白がっているなあ」と相手の顔を見ていると自分も面白くなるじゃないですか。そういう働き方がずっとできて、うまく会社がまわっていれば、それが一番いいなということですね。

人生で圧倒的に長い、会社で仕事を面白くする組織

青野 普段、お仕事されるときは、会社にいらっしゃるのですか?

糸井 会社にいることは多いけれど、あっちこっちで人の邪魔をしてたり(笑)。じつは、うちはミーティングが大事だということをわりに強く言う会社なのです。普通、長い会議は迷惑だと言いますよね。

 でも、ミーティングこそ仕事であり、あとは自分で持って帰って何とかすればいい。僕はミーティングのキャッチボールのなかに本当の何かが見えてくるということをすごく言っていて、ミーティングをするための部屋も会社にはいくつもあります。

青野 私もミーティングは重要だと思っています。生産性の高いミーティングなら仕事のアウトプットにつながるので、一律にダメと言われると違和感がありますね。

糸井 ミーティングの際に、意見を必ず言うべきだと言い過ぎるのも嫌なんです。誰かが良いことをスカっと言ったときに、「いいなあ、俺もやってみたいなあ」と思えばいい。ミーティングで黙っていても良い仕事をやっているヤツは一杯います。

 さらに言えば、うちはプレゼンテーションもない。プレゼンは手間がかかり過ぎるからです。よその広告代理店を見ていると、週のうち4日間もプレゼンの準備をしている。それが一番邪魔だと思ったのです。うちは1枚の紙で済むような相手としか組んでいません。それでわかってくれなければ組まないほうがいいと思っています。生意気ですけれど。

 結局、自分がフリーでやっていたときの喜びと悲しみと苦悩をそのまま会社のかたちにしたんでしょうね。

青野 みんなが楽しく働けるおおもとのようなものとは何でしょうか。

糸井 うーん。よく冗談みたいに言っていますけど、働いている乗組員(社員)が退屈しないことを考えているのが社長の仕事だと思うのです。退屈させたら、やっぱり僕自身が仕事をやっていないことになる。社員たちの疲れや喜びは、たいてい顔に出ているわけで、僕の場合「これは危ないぞ」と思ったら急に社員たちを飯に連れていく。どどどっと動くとエネルギーが動きますから、そこでもう1回活性化するんです。

 ですから、うちでは急に組まれるイベントがたくさんあります。例えば、突然河口湖にある焼肉店にバスをチャーターして社員全員で行ったりする。

 そうすると、楽しいんですね。気合いを入れる決起集会的なものは1つもありませんし、合宿しても気持ちが義務的にならないように宿題も出しません。

 今度も大分に面白い学校があって、みんなで見学に行くんです。もちろん課題やレポートも何もありません。学ぶのではなく、その学校の面白い部分と一緒に踊ればいい。それが一番大事なのです。

青野 みんなに気持ち良く働いてもらって、糸井さんは何を達成したいのでしょう?

糸井 目的という言葉では語りにくいかもしれないですね。つまり、何かのためにするというよりも、とにかく会社にいて仕事をしている時間というのが人生の中で圧倒的に長いわけです。その時間を楽しいと思っていなかったら、どんな目的であろうがなかろうが、それはつらいと思うのです。

青野 一緒に仕事をする幸福感そのものが目的になっているということですか。

糸井 そうかもしれませんね。例えば、家族をつくる目的は子供をつくることですか、育てることですかと聞かれると、どちらでもないじゃないですか。要するに、ただいまと帰ってきた場所が帰ってきたい場所であるかどうかですよね。

 会社も同様に出社してそれなりに楽しくやっていれば、また来たいとなるわけです。さらに付け加えれば、「おまえ、うちに来ないか」と自信をもって言える会社にしたいですね。仕事はいくらでもつくればいい。うちはありがたいことに、「ほぼ日」に発表の場が山ほどあるんです。イベントをやろうが何をしようが収支トントンまではOKですから、暇でしょうがないということはありえない。

 工場だったらモノが売れなければ、つくってもしょうがないとなってしまう。だけど、うちはやわらかいものだけでできている会社ですから、やることがなければ何かをつくればいい。活き活きと働いていられれば、必ず何かはできるはずです。

(撮影:谷川真紀子)

*後編は11月19日に掲載します。

ほぼ日の約束三原則