Access Ranking
ワーキングマザー、在宅勤務、ノマドワーカーなど、日本の働き方をめぐる議論が盛り上がっている。日本の働き方は多様化しつつあるものの、まだまだ女性にとって厳しい社会といえる。
働きながら産み育てたい女性、そして共に生きていく男性はこれからの世の中をいかに泳いでいくべきか。そして、どうすれば日本の男女は、幸せに働くことができるのか。晩婚化、少子化時代のライフプランニングについて少子化ジャーナリストの白河桃子氏と男性学の新鋭、田中俊之氏に話を聞いた。
やる気があるのに
やさぐれるキャリアウーマンたち
白河:見過ごされている問題は昔と違って、働きたい女性だけでなく、働きたくない女性も全員働かないと、この先結婚も出産もないということです。働かないとこれ以上無理。何が無理かといえば結婚が無理。つまり、養える男の数がもう足りないのです。どんなに婚活しようが、女子力をつけようが、養ってほしいと思っている女性に対して、養える、または養う気のある男性の数があまりに足りない。婚活をしてもその現状にぶち当たってしまうのです。
出産から2~3年後に復帰するとしても、日本の会社の働き方では、一度辞めてしまうと、次の再就職まで長いブランクが生まれる厳しさがあります。女性が出産したあとの働き方に安心感がないことが、結婚に対しても非常に大きなハードルになっている。産まない自由はあっても産む自由がない時代になっているのです。
田中:日本の専業主婦率のピークは1975年、それ以降は減少傾向にあります。現実とはギャップがあるのに、男性が仕事をして、女性は家にいて、という性別役割分業のイメージが今も強い。現実の姿とは大きくズレています。女性が働き続け、妊娠出産したときに対応できるようなシステムに会社自体がなっていないところが多いのです。
白河:常勤の女性で出産1年後にまだ勤めているのは均等法以降、2割くらいでずっと変わらなかった。それが2010年になって初めて3割を超えたのです。今は37%くらい。大卒女性に関しては、6割くらいが残るということらしいのですが、まだまだ厳しい。その理由の一つは男性に合わせた働き方。つまり、男性に合わせた昇進、育成スケジュールと残業時間の多さなんです。もう一つは女性の気持ちの中にもハードルがある。
今の学生の母親のほとんどが専業主婦だった経験がある人たちです。一回辞めると、あとはほとんどパートにしかなれない。共働き夫婦は増えていますが、パート主婦で年収100万円前後の人が多い。その子供たちが今ちょうど大学生なんです。
彼らの親は、子供を預けたら周囲に子供がかわいそうと言われた世代。母親ひとりで育児をがんばらなければいけないという圧力がすごく大きかった。それが子供たちにも影響している。
もう一つは会社にも洗脳されていて、子供がいないときと同じ働き方ができない自分は駄目だと思い込んでしまう。やる気があるのに、やさぐれてしまうキャリアウーマンたちをたくさん知っています。
田中:それは会社の組織と現状にすごく差があることが問題だと思います。子供ができたら辞めないといけないと思う風土自体おかしい。男性をモデルとして会社をつくっていくと、どうしても妊娠出産をハンディとして感じてしまうのです。
婚活女子へ
「本当にお願いだから
看護師とか保育士の資格をとって」
白河:そもそも女性は出世したいと思っている人はそんなにいません。ただ、能力が低いかと言われればそんなことはなく、自分から手を挙げなくても、周りから求められればやるという人はいます。
問題は「昇進したからって、どれだけいいことがあるの?」ということをまだ誰も語っていないことです。日本は管理職になってもそんなにおカネが違うわけでもなく、仕事だけ増えて大変という見方が多い。総合職で係長になった人に聞いたら、周りの女性から「お給料は変わらず責任だけ増えて本当にかわいそう」と思われているそうです。出世にそれほどインセンティブがないのです。
今の女子学生を見ていると、キャリア志向は2割、専業主婦希望も2割で、残り6割が仕事もがんばりたいけど結婚しなきゃいけないし子育てもあるとモヤモヤしている。私は“モヤモヤ女子”と呼んでいるのですが、彼女たちはきっかけ次第で会社に役に立つ人になれるんです。でもそれがなければ、モヤモヤのまま辞めると思います。そこをテコ入れすべきなんです。
田中:私はそうしたモヤモヤ女子の中に、専業主婦になるか、働くかということよりも「虚栄心」と「向上心」を混同している人が多い気がしています。「出世したい」や「高収入の男性と結婚したい」というのは見栄ですよね。自分が向上したい、納得した生き方をしたいというよりも、他人からどう見られるかを気にする人が男女問わずいる。そんな人ほどイメージに縛られてうまく生きられない。
白河:大学進学者は増えたのですが、大卒としての能力をずっと活かしているのかといえば、そうではない。婚活に励む女性がいる一方で、3人に1人が相対的に一人暮らしの貧困層に陥っています。多過ぎです。いずれは結婚して誰かに養ってもらおうと期待していると、自分で稼ぐ術がないまま、ずるずる歳をとってしまうのです。
とくに親の家に住んで、非正規で働いて、婚活だけをしている人は見えない貧困予備軍です。「もう本当にお願いだから、親が生きているうちに看護師とか保育士の資格をとって」と言いたくなっちゃう。親がいなくなったらどうするのか。歳をとるうちに出産の選択肢もなくなってしまう。
じゃあ、結婚すればいいのかといえば、それだけの問題でもなくて、65歳以上の女性の2人に1人がやっぱり貧困層なんです。旦那さんが死んだら、自分の分まで稼いでくれていなかったということなんです。今のところ、私は「納税できる女子を育てること」が一番の課題だと思っています。
田舎にいても家族で
バーベキューできないと居づらい
田中:多くの人は標準世帯という発想からなかなか抜け切れないのでしょう。父母、子供2人の4人家族をモデルにして日本はいろんなシステムをつくってしまった。しかし、今はそれが標準ではなくなってきている。皆がそうなりたいという想いだけが残っているのです。
白河:就職教育の仕方として大学のキャリアセンターなどは、一般職を受けなさいとよく言いますね。親も安心するし、就職率も上がるから。
田中:しかし、就職率は公表するが、離職率は公表しない。一般職の離職率は気になるところです。
白河:一般職でも生活できれば別にいいんです。でも、賃金も低いし、転職のときにツブシが利かない。学生にも「一般職ではない選択肢もあるよ」と言っても、今度は転勤がネックになってしまう。転勤がイヤと言う人は圧倒的に多い。だから、地元志向が強い。親もおカネがなくて、下宿させてまで東京の大学に行かせられなくなっている。野心をもって上京する人がすごく減っているんです。
田中:自分の知らないところに漕ぎだすというのは、女性も働く時代だと言われても怖いと思うんです。会社で環境が変わるんだったら、せめて友達はすぐに会える状況にしたい。人間関係をリセットする恐怖があるのかもしれません。
白河:田舎にいても30代になってくると、家族でバーベキューをできないと居づらくなってくるそうですよ。田舎には田舎のライフスタイルがあって、家族をつくっていくことがすごく重要になる。そこからこぼれてしまうと非常に生きにくい。
田中:私は38歳独身なんですが、地方に講演に行くとお見合いの話になる。東京では同世代の3人に1人がまだ独身だから目立つことはないんですが。
共働きになって
“じじばばリソース”を使うしかない
白河:多様な生き方が可能だとよく言うんですが、女性が将来的に子供をほしいと思うんだったら、私は共働き以外の選択肢はないと思っています。意外に選択できるようで、できない。これからは、ダブルインカム、ツーキッズが標準になってくるのかもしれません。
田中:だからこそ、実家の近くに住むしかない。親の力、いわば“じじばばリソース”を活用しないと共働きは難しい。両親に子供の面倒を見てもらって、自分たちは働く。
白河:じじばばリソースが使える人はいいのですが、使えない人もどんどん増えています。逆に昔のキャリアウーマンはじじばばリソースを使える人のみだったんです。そうじゃない人はみんな敗れ去っていった。待機児童も学童保育も多様な働き方を認めようと言うわりには、制度に柔軟性がないことが問題です。
田中:余裕があって実家から出ないのは問題ですが、使えるリソースが少なかったり、収入が少なかったりする場合には、あまり非難はできない。でも、親はいつか自分より先に亡くなる。そこにずっと頼るわけにもいきません。
白河:一方で晩婚化や産むことの先延ばしによる不妊治療が増えているという話もあります。高齢になって産もうとするから不妊になりやすい。若い頃に産んでいれば問題なかった。加齢の問題は男女関係なくあります。
夫婦2人の、いわゆるディンクスも意識的に選んだ人はあまりいなくて、なんとなくタイミングを逃した人に多い。そこに働き方の問題が大きくかかわってくるのです。共働きは忙しいので、すれ違いだし、どこかで産もうと決めないと自然に子供を持つことが難しくなっている。どこかでライフスタイルに踏ん切りをつけて決意をしないと難しい時代になっています。
※ 後編はこちら