日産・ルノー「経営統合」問題の深過ぎる真相 日産社長は合併報道否定でも体制変更に含み

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自動運転など新技術の開発でも、技術力に勝る日産が牽引しているのが実態だ。遠藤氏は「中途半端なアライアンス(企業連合)ではなく、一つの会社になることで、仏政府はルノーの存続を確実なものにしたい考えがあるはずだ」と指摘する。

日産自動車の小型車「マイクラ(日本名:マーチ)」。刷新に伴い、欧州向けの生産は2017年にインドから仏ルノー工場に移管された。自国での生産を求める仏政府からの圧力があったとみられる(写真:日産自動車)

日産側が懸念するのは、これまで経営やブランドなどの独立性を担保した上で、部品の共同購買などでコスト削減を進め、車種開発や市場展開で互いに弱点を補完し合ってきた「緩やかな提携」という成功の形が壊れることだ。仏政府は民間企業への経営介入を厭わない傾向があり、過去にルノーが計画した仏国外への工場移転を中止させたこともあった。

仮に仏政府の影響下で経営統合が実現し、仏政府の口出しが続くようだと、日産の競争力にも悪影響を及ぼしかねない。日産が「仏自動車大手」になれば、高品質の「日本車」という看板を失い、マザー市場の日本だけでなく、世界販売に対する損失も大きいだろう。

ルノー株主総会でのゴーン氏発言に注目

仏政府は最終的には2社の合併を求めているとされるが、ゴーン氏は提携関係見直しには日産とルノーのみならず、日仏両政府の同意が必要だと強調する。経営の独立性を重視する日産はもちろん、雇用や税収面でのマイナスが想定される日本政府にとっても、合併は容認しがたい形態であるに違いない。ある日産幹部も「ゴーン会長は『あらゆる選択肢を検討する』としか言っていない。ルノーにはメリットで、日産にはデメリットであるようなこと、またその逆もアライアンスの意思決定の中でしてこなかったし、今回もないと思う」と強調する。

持ち株新会社の傘下に両社を組み入れる経営統合などの枠組みが取り沙汰されている。財政赤字に悩む仏政府がルノー株売却に動く可能性がある一方、選挙などに強い影響力を持つルノーの労働組合側が反発することも考えられ、ゴーン氏が描く筋書通りに交渉が進む保証はない。2社が経営統合した場合、日産傘下にある三菱自動車の立ち位置がどうなるかも見通せない。日産の西川社長は「仮にいい解がなければ、今の状態を続けることになる」と現状維持の可能性も否定していない。

6月にはルノーと日産それぞれの株主総会が開催される予定だ。特にルノーの総会で、ゴーン氏と仏政府が日産との経営統合についてどのように言及するかに注目が集まる。今のところ、今回の総会に関連議案が提案される公算は小さい。ゴーン氏が関係見直しの期限とした2022年に向け、日産・ルノー・仏政府の3者間で水面下での激しい主導権争いが続きそうだ。

岸本 桂司 東洋経済 記者

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きしもと けいじ / Keiji Kishimoto

全国紙勤務を経て、2018年1月に東洋経済新報社入社。自動車や百貨店、アパレルなどの業界担当記者を経て、2023年4月から編集局証券部で「会社四季報 業界地図」などの編集担当。趣味はサッカー観戦、フットサル、読書、映画鑑賞。

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