日産・ルノー「経営統合」問題の深過ぎる真相 日産社長は合併報道否定でも体制変更に含み

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現在ではルノーが日産に43.4%、日産がルノーに15%と相互出資関係にあるが、日産が持つルノー株には議決権が付与されていない。仏政府はルノーの競争力強化、ひいては自国の産業育成と雇用保護のため、かねてルノーを通じて日産を影響下に置きたい姿勢を示してきた。

2014年には株式を2年以上保有する長期株主の議決権を2倍に増やす通称「フロランジュ法」を制定。日産経営への関与を強めようと画策したが、日産側はゴーンCEO(当時)が前面に立って強く反発。2015年12月、日産はルノー、仏政府との間で経営の自主性を維持することで合意した。

日産は自社の経営判断に対してルノーから不当な干渉を受けたと判断した場合、ルノーへの出資比率を引き上げることが可能になった。日本の会社法の規定では、日産がルノー株の25%以上を持つと、ルノーが持つ日産株の議決権が停止され、ルノーを通じた仏政府の日産への影響力を遮断できる(「日産、仏政府の支配を断念させた伝家の宝刀」)。

実態は仏政府による実質的なルノー救済策か

ただ、当時と現在を比較すると、主に3つの点で状況が異なる。まず、フロランジュ法制定時に経済産業デジタル担当相だったマクロン氏が大統領に就任した点だ。前回はルノー・日産と政府との対立激化に仏首相が「統合を求めない」と発言して収拾に乗り出したが、今回は大統領自身が統合要求の急先鋒だけにそれは望めない。

カルロス・ゴーン氏は、今年6月のルノー株主総会で再任が認められれば、2022年までCEOを務めることになる。その任期内に、ゴーン氏は、日産とルノーの提携関係について、資本関係を含めて見直しを行いたい考えだ(編集部撮影)

2点目は、ゴーン氏が日産CEOを西川氏に譲り、日産の利益を直接代弁する立場でなくなっていることだ。前回はゴーン氏が経営介入を牽制し連合を守ってきたが、今回は「現在の体制が持続できるとは思えない」などと仏政府寄りの発言が目立つ。

3点目は、現在64歳のゴーン氏が経営の一線から退く日がより身近になっている点だ。ゴーン氏は6月のルノー株主総会でCEOに再任される見通しだが、その任期は2022年に満了する。日仏自動車連合の成功はゴーン氏の強烈な個性とリーダーシップに大きく依存しており、退任を見据えた「ポスト・ゴーン」体制を模索する必要が出てきているのだ。

「単体では将来性に疑問符が付くルノーが今後生き残っていくためには、日産と経営統合するしかないと仏政府は考えているのではないか」。SBI証券の遠藤功治アナリストは、一連の動きには「実質的なルノー救済」という側面があると見る。

遠藤氏が理由の一つに挙げるのが、ルノー車販売の足場が仏を中心とした西欧に依存しており、米国と中国、インドという成長市場での販売実績に乏しいことだ。また、次世代車の本命の一つと目される電気自動車(EV)では、小型車「ZOE(ゾエ)」の累計販売台数は欧州トップとはいえ、グローバル市場での存在感は小さい。

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