イケアが低迷の果てに赤字転落した根本理由 なぜニトリとここまで大差がついたのか?

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店舗はECに比べての「品揃えの狭さ」「情報の限定」「労働の負担」「時間の負担」が疎まれて顧客の離反が加速しており、その解消こそが真のオムニチャネル化(ECと店舗が一元一体の利便を顧客に提供する体制)だと会得して全力で変貌しない限り、遠からず小売りの歴史に埋もれてしまう。ちょうど一世紀前、急台頭するチェーンストアの利便に圧されてカタログ通販がつるべ落としに衰退していったように……。

ショールームストア化は待ったなし

家具・インテリア分野のEC比率は2013年の13.17%から14年は15.49%、15年は16.74%、16年は18.66%と上昇してきたが、EC化が進んだ英国では過半に達して『店舗はショールーム』が常識になっている。

それは家具・インテリアと同様に商品がかさばる家電関連とて同様で、わが国でもEC比率は30%に達し英国では過半を超えている。ECが普及しクリック&コレクトが定着した英国では衣料・履物とてEC比率が過半に迫り食品さえ16%(わが国はまだ2%台)に達しているから、生鮮食品を除く大半の消費材で店舗がショールーム化するのは時間の問題だ。

『小売業者は店舗に商品を運んで積み上げ、顧客は欲しい商品をピッキングして自ら持ち帰る』という百年続いた“販物一体”購買慣習も(それ以前は訪問販売や通販が主流だった)、ECというネット時代の“販物分離”購買慣習に代替されつつある。

“販物一体”購買慣習は職住分離で男は職場・女は家事というサラリーマン社会形成で成立した前世紀の旧弊であり、女性就業率が急上昇して米国を抜き70%に迫るわが国で継続すると期待するのは無理がある。そんな現実を、チェーンストアとセルフサービスという前世紀の流通システムにとらわれた小売業者は直視できているだろうか。

ECのプラットフォームに店舗を載せて“販物分離”するショールームストアが小売店舗の主流になる日はもう目前に迫っているのに、“販物一体”のままレジレス精算に夢中になっている有様は到底、大塚家具やイケアを笑えないのではないか。

小島 健輔 小島ファッションマーケティング 代表取締役
こじま けんすけ / Kensuke Kojima

慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、(株)小島ファッションマーケティングを設立。ファッションビジネスの経営実務研究会「SPAC」を主催して業界の経営革新にあたる一方、業界紙誌やネットメディアにも寄稿。2016年には経済産業省のアパレル・サプライチェーン研究会委員も務めた。マーケティング&リテイリングからサプライチェーン&ロジスティクスをデジタルとアナログの両面から一貫して捉え、中長期視点の経営戦略と現場の技術革新を提言している。

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