民営化「大阪シティバス」が抱える根本問題 全国で続々、公営バスの民営化は課題が山積

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地方公営企業法にもとづく公営バス事業の民営化が相次いでいる。最近20年で見ても、17市の公営バスが民営化された。最盛期には50近くを数えた公営バス事業者は、現在24に減少している。

民営化の手法は、周辺地域で乗合バス事業を運営する既存の民間事業者に移譲するパターンと、事業そのものを当該市が出資する株式会社に一括移管するパターンに大別される。圧倒的に多いのは前者で、後者はこれまで尾道市と岩国市に見られるのみだったが、今回の大阪市のケースはこちらに該当する。イメージ的には国鉄が国の出資する株式会社のJRに変わったときと似た、公営企業を株式会社化した形態である。

公営バスが民営化される理由として挙げられるのは「効率化」である。公営バスの多くは多額の赤字を抱え、数次の財政再建計画をもってしても解消できない赤字を一般会計から補塡して運営を続けてきた。その一般会計自体も財政難となり、財政負担のあり方が議会等でも問題視される中での選択肢が民営化だったといえる。

大阪市交通局も、地下鉄は2010年度に累積赤字を解消して以来黒字で推移しているが、バス事業会計は2013年度から単年度では黒字を計上しているものの、累積赤字は700億円に近い。このうち一時借入金等の返済免除、外部からの債権等は市の高速鉄道事業会計から拠出し、大阪シティバスは負債を引き継がずに民営化をスタートする。

公営バスの人件費は本当に高いのか

効率化をしなければならないのは、公営は無駄が多いからだと言われる。確かに、しばしば“お役所仕事”と言われるように、事務方は細かく担当が分かれて人数が多いのは事実であるし、予備車を含む車両数も多くて、営業所に“遊んでいる”車両は民営バスに比べて目立つ。車両も独自の特別仕様を擁する“金のかかった車両”が多い。

だが、本当にそのことが公営バス事業の抱える本質的な問題なのだろうか。ざっくり言うと同地域の民営バスに比べて20~30%高いと言われる人件費だが、公営バスも、民営が大幅に下がっているからその差は縮まらないものの、給与レベルは下がっている。

しばしば“大阪市営バスには年収1000万円以上の運転士がごろごろいる”といった報道がなされたが、それは過去の話で、“1000万プレーヤー”は各公営バスともすでにかなり前に定年退職し、その後は嘱託や契約職員を採用してコストダウンが進められた。また、2000年の京都市交通局を皮切りに、よりコストの低い事業者(周辺の民営バス事業者または外郭団体)への管理の受委託が進められ、すでに仙台市、東京都、川崎市、名古屋市、京都市、神戸市などで認可上最大限の管理委託が行われている。

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