中央線「立川まで複々線」はなぜできないのか グリーン車はできるが線路は増えないまま?

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中央線の複々線区間が短い、言いかえれば立川―新宿間の移動がスムーズでないことで影響を受けている人々は、東京都心に通勤する人たちだけではない。山梨県や長野県の中信地方に住む人々にもその影響は及んでいる。中央本線の特急は1番列車でも新宿着が朝9時過ぎで、距離の割には出張などに不便なのだ。

中央本線の特急「スーパーあずさ」用新型車両E353系(撮影:編集部)

中央本線の上り特急第1便「かいじ102号」は竜王7時02分・甲府7時08分発で新宿着は9時04分。その次のあずさ2号は、松本6時08分発・甲府7時24分発で、新宿に着くのは9時12分である。他線と比べると、たとえば甲府―新宿間とほぼ同距離(123.3km)の勝田(茨城県)―上野間を結ぶ常磐線特急は、8時台に上野に着く列車が5本ある。新幹線の通る静岡や長野、新潟、福島などからも8時台に東京都心に到着できる。だが、距離的には近いはずの山梨県は不可能なのだ。

一方、中央道を通る高速バスは、中央線特急よりも朝早く新宿に到着する便がある。甲府駅発5時00分・バスタ新宿着7時10分の便や、松本バスターミナル発4時20分・バスタ新宿着8時13分という便があり、これらのバスは人気が高い。だが、バスは都心に近づくと渋滞に巻き込まれて遅れることも多い。筆者は山梨県出身であるため、出張時などに「困っている」という話は実際によく聞く。

グリーン車は実現するが…

また、中央線の複々線区間が短く通勤列車を遠方から運転することが難しいため、高尾以遠の住宅開発も都心からの距離の割にはあまり進んでいない。

山梨県内では四方津駅が最寄りの「コモアしおつ」や、猿橋駅近くの「パストラルびゅう桂台」などで住宅開発が行われてきたが、都心への通勤の足は便利とは言いがたい。四方津駅は新宿から63.7kmで、東海道線なら東京を起点として平塚あたり、常磐線なら上野を起点として土浦あたりに相当する距離だ。十分に通勤圏といえるが、朝9時前に新宿に着ける直通列車は5本しかない。都心直通列車の本数がもう少し多ければ利便性も高まり、減少を続ける山梨県の人口にも歯止めがかかったかもしれない。

JR東日本は4月3日、中央線快速にグリーン車を2023年度末から導入することを発表した。当初の予定よりやや遅れたとはいえ、グリーン車の連結は今後数年で実現することになるが、それより以前から存在する三鷹―立川間の複々線化計画が実現する日は、はたして来るのだろうか。

小林 拓矢 フリーライター

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こばやし たくや / Takuya Kobayashi

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。在学時は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。著書は『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。また ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に執筆参加。

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