シーメンス、英国「鉄道新工場」で日立と激突 鉄道大手メーカー各社参戦で「戦国時代」に

拡大
縮小

このうち、ロンドン交通局が管轄する地下鉄車両更新とDLR車両の更新・増備に関しては、車両の老朽化が進んでいることと、輸送力増強が喫緊の課題であることから、早急な対策が必要となっている。

40年以上が経過したロンドン地下鉄ピカデリー線用車両。ロンドン地下鉄からは、まもなくベーカールー線用なども含め、900両規模の発注が見込まれる(筆者撮影)

更新のために必要な車両数は、地下鉄ベーカールー線の7両編成36本の計252両と、ピカデリー線の6両編成87本+予備車3両の計525両、それにウォータールー&シティ線の4両編成5本20両で、総計797両となる。これにDLRの旧型車両更新および輸送力強化のための車両増備を加えれば、900両に達するほどの大型案件となるだろう。このロンドンの案件が一段落した後も、英国内では旧型車両の更新や追加増備による輸送力増強など多くの需要が見込まれている。

英国内は車両メーカー戦国時代に

また、シーメンスが英国内に工場建設を急ぐもう一つの理由として、2019年に迫った欧州連合(EU)からの英国脱退(ブレグジット)という点にも注目しなければならない。英国がEUから正式に離脱した後、英国外からの輸入については関税がかけられることになるため、大陸側の工場で製造して輸入する形では、英国内に工場を持つ他社に対して価格面で不利となる可能性がある。

ボンバルディアの主力車両、エレクトロスター。1999年から製造が続けられている人気車両で、英国ダービーの工場で製造される(筆者撮影)

さらに、EU離脱後は人や物の流れが今よりも制限されることが予想され、工場の建設は難しくなる。この先もしばらく続く、決して小さくない英国内の車両供給需要を考えれば、ある程度の生産能力を持った工場を離脱前に建設することは理に適っており、英国内に新工場を建設する十分な理由になると言えよう。

欧州市場における主要3メーカーが揃い踏みとなった英国。これに加え、スペインのCAFも2018年に英国工場を開設予定となっている。英国内はまさに鉄道車両メーカー戦国時代へ突入、群雄割拠の様相を呈してきた。次の製造案件はどこのメーカーが獲得するのか、その興味は尽きない。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT