「マレーシア新幹線」日本の受注が難しい理由 オール日本は機能不全、中国は在来線で圧勝
マレーシアのラジオ番組で1月2日に放送された宮川眞喜雄・在マレーシア大使の発言が鉄道業界の関係者の一部で波紋を呼んでいる。新幹線の安全性を強調した上で、マレーシアとシンガポールを結ぶ高速鉄道事業に、「現地の人材育成や現地負担の少ないファイナンスも含め、ベストの提案を行う」として、受注獲得に自信を示したのである。
包括的な、車両からメンテナンスに至るまでのハード、ソフト両面をトータルに輸出する、パッケージ型鉄道インフラの売り込み。このスキーム自体は、もはや新鮮味も感じないくらい世の中に浸透していると思われるが、筆者は違和感を抱かざるを得なかった。パッケージ型の鉄道輸出に対して政府と鉄道業界の間で温度差があるからだ。2016年8月22日付記事『鉄道「オールジャパン」のちぐはぐな実態』でその状況は伝えられているが、それから1年半近くが経過しても、改善された様子はない。
シンガポールとマレーシアは世界最大級の華人経済圏
マレーシア―シンガポール間の高速鉄道事業は、運営主体であるSG HSR(シンガポール高速鉄道)とMY HSR(マレーシア高速鉄道会社)が入札を実施する。すでに一部の入札が実施されており、事前調査や土木関係のコンサル業務は、地元業者のほか、中国、欧州勢からの応札があったようだ。わが国の本命は、6月にも入札締め切りと言われている、車両、信号、オペレーション、メンテナンス等の実際の運行を司るパッケージである。どのような仕様が求められているのかは明らかになっていないが、その入札説明会が1月下旬に開催され、日本企業コンソーシアムも参加した模様である。大使の発言は、この入札を踏まえてのものと思われる。
不思議でならないのは、日本の提案内容は中国よりも優れているからマレーシア―シンガポール案件は確実に受注できるという声をしばしば耳にすることである。これは大いなる誤解と言わざるを得ない。華人比率において、東南アジアで1位、2位を占めるのがシンガポールとマレーシアである。人口の3割弱が中華系と言われるマレーシア、そしてシンガポールに至っては歴史的背景から、その比率は7割を超える。これが、直接中国企業に有利に働くと断言することはできないが、世界最大級とも言える華人経済圏において、日系企業連合の受注は、簡単なものではない。
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