青函トンネル30年、新幹線が直面する大矛盾 海面下240mで最高難易度の保守作業が続く

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2本の在来線用レールの外側(左側)に新幹線用のレールが設置された「三線軌条」(記者撮影)

青函トンネルを保有するのは国土交通省が所管する鉄道建設・運輸施設整備支援機構だが、維持管理はJR北海道が行う。青函トンネルとその前後の区間(青函トンネル区間)約82kmは軌間の異なる新幹線と在来線が共用走行するため、在来線用の2本のレールの外側に新幹線用のレールを1本配置した「三線軌条」という複雑な構造が用いられている。

インフラの部品数は新幹線専用区間よりもはるかに多い。たとえば、「レールと枕木を固定するレール締結装置は通常の線路の1.5倍必要」(JR北海道)という。複雑な構造ゆえに保守作業も厄介だ。新幹線は深夜0時から朝6時までの時間帯は走行しないため、保守作業向けに理論上6時間確保されているが、青函トンネル区間は例外で夜間に貨物列車が走行する。そのため、作業時間は2~4時間しか取れない。

新幹線の開業直後、トンネル内にいないはずの列車がいるという誤った信号が出され、列車が緊急停止したことがある。原因は在来線と新幹線のレールの細いすき間に金属片が挟まって通電したことにある。想定外のトラブルだった。JR北海道はその対策として在来線レールと新幹線レールの間に絶縁板を設置した。こうした作業も短い保守時間に行われる。青函トンネル内の保守作業は全国で最も難易度が高いといっても過言ではない。

大規模改修が避けられず

青函トンネルは本線として使われる本坑のほかに、本坑に先駆けて掘削し地質や出水を調査し施工方法を検討した先進導坑、そして本坑と並行して設置され機械や資材を運んだ作業坑がある。現在、先進導坑は排水と換気のために、作業坑は保守用通路として用いられている。これらの保守作業もJR北海道が行っている。

ケーブルカーで降りた先の青函トンネル最深部には、しみ出した地下水がたまっていた(記者撮影)

トンネル完成から30年、建設開始から数えれば半世紀近く経った箇所もある。昨年2月には先進導坑の壁に変状が見つかった。トンネル周囲の地盤からの強い圧力で、トンネル内部の断面積がわずかに縮小したのだ。すぐにトンネルの補強工事を行ったが、頑丈に造られている本坑でも今後は、大規模な改修が必要になってくる。

トンネル内には大量の地下水がしみ出している。水は高い所から低い所に流れるという性質を利用して、本坑や作業坑の水は先進導坑を通してトンネル最深部に設置された計3カ所の排水基地に集められ、ポンプを使って地上に排出される。この排水ポンプもすでに更新が始まっている。

三線軌条という複雑な構造下での保守作業となるため、青函トンネルの維持管理費用はほかのトンネルよりも割高となる。鉄道運輸機構も負担しているが、JR北海道の負担総額は年間41億円にも達するという。経営の厳しい同社には決して軽い負担ではない。

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