「脳の記憶補助装置」が人の生き方を変える ナレッジスイート社長ロングインタビュー

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稲葉:一方、マイナス面としては、エントリーの金額が安いためにすぐには利益が上がらない、という面もあります。始めた頃なんかは、熊本まで営業2人で潜在顧客に2回会いに行って、月2000円の売上にしかならない契約を1本取るということもありました。仮に2年間の契約でも、収益は5万円にしか到達しません。営業の交通費のほうが断然高いですし、この契約単体で見たら完全な赤字ですよ。それでも、まずはおカネを出してくださるお客さんが欲しかったんです。年間最大2億円以上の赤字を出しながら頑張ってきました。

村上:その頃から出資は受けられていたわけですよね。

稲葉:すでに受けていました。資金調達も戦略が必要で、バリュエーションをどう説明していくのかという意味で、重要な経営戦略なんです。僕らがキャッシュポジションの目安として考えていたのは、「1年分の事業資金を現金として保有する」というものでした。だから、現金残高が1年分を切る前に新サービスやプレスリリースを連続して出して、次の成長戦略を見せつつ資金調達を繰り返していましたね。

それでも最初の7年くらいは、先の光が一切見えない時期もありました。いくら試算してみても、一向に黒字になる光が見えなかったんです。でも、僕らはSaaS型の事業ですから、やり続けていればいつか黒字化の時が来ると信じていました。僕自身は、おカネが尽きる前に資金調達をうまくやりながら事業資金とつないでいくことが最も大事な仕事だと思ってましたね。

それでも5~6年前に1回、僕の読みが外れて大赤字が続き、現金がなくなりかけてダウンラウンドになってしまったこともありました。緊急で3億円弱くらいを出資してもらったんですけど、その時が一番つらかったです。そこから2年後にようやく黒字化しました。

中小企業向けクラウドサービスはブルーオーシャン

村上:これから、御社の成長の可能性はどこにあるとお考えですか?

稲葉:「ナレッジスイート」の直販を含めた営業体制強化ですね。

村上:売り上げの拡大に向けたKPIを分解すると、使ってもらう頻度を高めるのか、利用企業社数を増やすのか、どのような戦略が考えられますか?

稲葉:一般的には、「新規顧客にアプローチするよりも、既存顧客からアップセル、クロスセルしていったほうが効率的」と言われていますよね。でもうちの場合、継続してインバウンドがあるので、新規顧客を獲得するほうが早いんです。中小企業向けのクラウドサービスというのはブルーオーシャンで、競合が誰もいません。このマーケットで早くポジションを築いたほうがいいと考えて、新規を取り続けてきました。

ただ、今後はデータ量を積み上げることによって既存顧客の単価を伸ばすことも同時にやらなければならないと思っています。それが今回のIPOのきっかけなんです。

村上:新規獲得と既存アップセルのバランスですが、マーケットはまだ開拓の余地が大きいですよね。そんな中、新規獲得にフォーカスするのか、それとも既存アップセルやクロスセルに注力するのか、どちらでしょうか?

稲葉:新規ですね。日本の企業数が420万社で中小企業が400万社、その中で個人事業主を鑑みても、ターゲットとなるのは100万社から200万社いるわけですよ。うちの顧客はまだ約4800社しかいません。シェアは1%にも届いていないんです。だから、利益率・収益性を考えても、まだまだ新規を取り続けたほうが効率的だと思います。

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