人生100年時代「稼ぎ続ける人」に肝要な選択 「学び直し」は今すぐできるライフ・シフトだ
1月下旬の週末、山形県南陽市にある赤湯駅から車で10分ほど走ると、雪景色の中に小学校が現れた。ただし、その中から聞こえたのは小学生ではなく、中高年の男女の笑い声。校舎の一室で、講師の声に熱心に耳を傾けている。
ここは「熱中小学校」。起業家などが講師役の「大人の社会塾」だ。2015年、元日本IBM常務の堀田一芙氏らが中心となり、廃校となった小学校の校舎を改装して開校。授業は月2回。経営者や音楽家、デザイナーら約100人がボランティアで講師役を務める。
生徒は20代の若者から子育てを終えた主婦、定年を控えた男性まで多彩な面々だ。「大人が小学校に入学した7歳の頃の目線に戻って、もう一度世の中を眺めてみようというのが設立の狙い」と堀田氏は話す。
通常の講義型の授業に加え、ワイン生産などの農業を手掛けたり、3Dプリンタでモノづくりしたりする体験型授業をそろえる。仙台から通う銀行員の女性は、「ここに来ると普段会えない人と会える。大人になってこり固まってきた考え方が、柔軟に変わっていく」と話す。
政府がリカレント教育に本腰
人生100年時代に備え、教育→仕事→引退の順に同世代が一斉行進する「3ステージ」の人生から、複数のキャリアを渡り歩く「マルチステージ」の人生へのシフトを勧めたのが、英ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏らが著した『ライフ・シフト』(小社刊)である。2016年11月の発売以降、反響は続き、2017年秋には安倍晋三政権が目玉政策に掲げる「人づくり革命」の一環で「人生100年時代構想会議」を設置、グラットン氏も有識者議員に起用された。
同会議で幼児・高等教育の無償化とともに、改革の柱として議論されているのが、社会人の「リカレント(学び直し)教育」である。長寿化に伴い現役で働く期間が延びる一方、インターネットの発達やAI(人工知能)の台頭など環境変化は著しく、一つの分野のスキルで一生稼げる時代は終わりつつある。だからこそ社会人に、異分野の知識や能力を磨くリカレントの必要性が高まっている。『週刊東洋経済』の2月19日発売号は、「ライフ・シフト 学び直し編」を特集。その学びの現場やノウハウについて詳しく紹介している。
実際、大人の学びの需要に応えようと、学びの場は広がっている。社会人大学院では、これまで王道だったMBA以外のコースが存在感を増しつつあるほか、仕事や子育てに追われ、時間に余裕のない人々のニーズとしてオンライン講座が受け皿になりつつある。需要が急増しているプログラミングスキルの習得には、知識ゼロの文系出身者でも学べる学校が登場している。
一方、学び直しの場として最近普及しつつあるのが、「働きながら」できる異職種体験だ。共同印刷で法人の販促サポートを手掛ける領家隆志氏(38)は、2017年12月から週1回、ITベンチャーで働いている。活用するのはエッセンスの「ナナサン」。週1日だけベンチャー企業に仕事留学できるサービスだ。
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