右派ポピュリズムの波が欧州、米国、インドなどをのみ込んでいるが、日本はまだ無傷のようだ。極右政党を率いるオランダのヘルト・ウィルダース氏やフランスのマリーヌ・ルペン氏、あるいはトランプ米大統領のように、反エリート感情をあおって大衆を扇動する政治家は日本にはいない。なぜだろうか。
おそらく、橋下徹・前大阪市長がこうしたデマゴーグに最も近い存在だった。極右の政治思想やリベラル系メディアに対する敵意は右派ポピュリズムの典型だった。
バノン氏に絶賛された安倍首相
その橋下氏と気脈を通じるのが安倍晋三首相だ。安倍氏は、戦時中に閣僚を務め、後に首相となった岸信介氏の孫であり、外相を務めた安倍晋太郎氏の息子である。これほど政治エリートと呼ぶにふさわしい人物もいない。
が、それでいながら、同氏がリベラル系の学者やジャーナリストに対して見せる敵愾心(てきがいしん)は右派ポピュリストと同様のものだ。日本に右派ポピュリズムが存在しないように見える理由の一端が、ここにある。
戦後日本の民主主義に影響を与えた1950〜1960年代エリートは、日本を戦時ナショナリズムから意識的に遠ざけようとしてきた。これを無効化しようとしているのが安倍氏とその支持者だ。
安倍氏は平和憲法改正や戦争時代に対する誇りの回復、朝日新聞のようなエリート主義的マスコミの評判をおとしめることに力を注いでおり、トランプ氏の元首席戦略官バノン氏から「トランプの前に現れたトランプ」と称賛された。
つまり、右派ポピュリズム的なるものが、大衆(からのボトムアップ)ではなく、名門一族の御曹司(によるトップダウン)という形を取って政府中枢に存在しているのが日本なのである。
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