「悪質クレーマー」は一体どれだけ不当なのか 行き過ぎたお客様主義に走らないのも肝要だ

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迷惑行為を続けた際に、「お引き取りください」と言われ、それでも居残り続けた場合は、「不退去罪」に該当する場合もある。店舗などのパブリックな場所であったとしても、その場所の所有者や管理者から退去を求められて退去しなかった場合に成立する犯罪だ。

接客スタッフの立場になってみると、突然、悪質なクレーマー客と対峙することになって心の準備ができていないと、相手の勢いにのまれたり、どうしてよいかわからず頭が真っ白になったりするだろう。ただ、行きすぎた悪質クレームが刑法上の犯罪に問われる可能性があるという点から、「不当な要求に応じる必要はない」というスタンスを取ることは可能だ。

「必要以上の誠意」を要求するのも不当

接客スタッフの不手際に対して、「必要以上の誠意」を要求するのも不当だ。私は、会社の懇親会で行った居酒屋で、店員さんが手を滑らせて、スーツにビールをかけられてしまったことがある。

その際、ミスをした店員はすぐにおしぼりで拭いてくれ、本人と店長から丁寧に謝罪をもらい、「お詫びとして飲み放題を時間無制限にさせていただきます」という提案を受けた。同僚からは「お前、ケガの功名だな」とジョークも飛び、和やかに問題解決となった。

この事例において、私がもし金銭的要求をしたら、「① クリーニング代」「② 新品を弁償」「③ ①・②に加え慰謝料」のどこまでが認められたであろうか。

正解は、原則①までである。

どんなに愛着があるスーツであったとしても、クリーニングをしてきれいになるならば、それで原状回復が果たされたことになり、客はこれ以上の要求はできない。

仮に、しょうゆをこぼしてしまったなどでクリーニングをしてもしみが残って原状回復できない場合であっても、そのスーツを中古品として売った場合の時価相当額が賠償の上限となる。すなわち、すでに袖を通してスーツが中古品になっている以上、原状回復義務があるのは中古品としての限度になるので、新品を弁償させることは原則としてできない。まして慰謝料は、よほど特殊な事情がなければ法的には認められない。

法外な金銭を請求しようとするクレーマーは、よく「誠意を見せろ」という言葉を使うが、「誠心誠意の謝罪+原状回復義務」を果たしたなら、それ以上の「誠意」を求められても応じる必要はないということである。

もちろん店の経営方針として、新品を買える金額を支払うという判断もあると思うが、それは経営者や店長が判断することなので、現場の担当者としては、その場で答えを出さずに「責任者に報告のうえ、ご回答いたします」と保留をすればいい。

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