もつ鍋屋がシメの雑炊で意外にも儲かる理由 100円ショップの稼ぎ方を知っていますか

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ケイコ:確かに、外食産業は飲み物で儲けるという鉄則があるけれど、お鍋だったら、それよりももっといい方法がある。あなた、もつ鍋を食べたらそれで終わり?

マサキ:何言ってるんですか、先輩。もつ鍋は、最後の雑炊がうまいんじゃないですか。ボクがよく行くもつ鍋屋さんは、鍋の後のスープを使って、最後に「チーズリゾット雑炊」が食べられるというオプションがあるんですよ。500円でこの雑炊セットが食べられるんです。雑炊を食べるために、もつ鍋を食べるんだから、もつ鍋は前菜みたいなもんです。

ケイコ:それよ!

マサキ:え!? 先輩、マジですか!?

ケイコ:マジよ! 

マサキ:いや、「マジ」って……。

ケイコ:あなたは、1杯分の冷やごはんと生卵に500円も払っているのよ。原価なら30円くらいね。チーズが20円だとしても、せいぜい50円。そのお店は、もつ鍋を食べてもらうために、とにかく値段を安くする。そして、もっともっとおいしい雑炊を提案する。お客さんは、別に雑炊を食べなくてもいいんだけど、なぜか自分で食べるように選択してしまう。
その結果、どうなるか?

儲け方には美学がある

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ケイコ:もつ鍋だけなら原価率は40%強。でも、雑炊まで食べてくれたら、原価率はグンと下がる。これで、外食産業でやっていけるレベルにまで到達できるの。

マサキ:そうか! 自分が喜んで選んでいるんだから、文句もないですね。

ケイコ:上手にやる人はそこがスゴいの。原価を30%に抑えたいからといって、もつ鍋を1070円にして、シメの雑炊を170円で販売してたんじゃ、あまりに芸がなさすぎるわ。

それより、価格にメリハリをつけて、もつ鍋からは儲けないと決める。その代わり徹底的に作り込んだ雑炊で、きっちり特別感を感じてもらうわけ。そのほうが、どれだけあか抜けていることか。

ケイコ先輩が指摘したように、儲け方には、ある種の「美学」があるのです。有無を言わさず「買わせる」のではなく、顧客に「買いたい」と思わせる――。ものが売れない時代で成果を出さなければならないビジネスパーソンにとって、この発想ができるかどうかが、重要です。
川上 昌直 兵庫県立大学国際商経学部教授

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かわかみ まさなお / Masanao Kawakami

1974年大阪府生まれ。福島大学経済学部准教授などを経て、2012年兵庫県立大学経営学部教授、学部再編により現職。博士(経営学)。「現場で使えるビジネスモデル」を体系づけ、実際の企業で「臨床」までを行う実践派の経営学者。ビジネスの全体像を俯瞰する「ナインセルメソッド」は、規模や業種を問わずさまざまな企業で新規事業立案に用いられ、自身もアドバイザーとして関与している。専門はビジネスモデル、マネタイズ。主な著作:『「つながり」の創りかた』(東洋経済新報社)、『ビジネスモデルのグランドデザイン』(中央経済社)。

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