マネーフォワードが上場後に狙っていること 話題の新興企業トップにロングインタビュー

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村上:バリュエーションを議論するときに、売り上げが伸びていたとしても、「予期せぬ事態が起こった場合は危ない」だとか、「収益モデル自体に何らかの変化が起きるのではないか」といった疑問を、投資家を含めた外部の人からは持たれるのではないかと思います。

売上高の成長にフォーカスするということは、「SaaSという収益モデルだから安定的に売り上げが立つ」ということを念頭に置いていらっしゃると思うんですが、外部の人間としては、そうした収益性をどの程度、前提として考えてよいものでしょうか?

:先日の「シニフィ談」で触れられていたパズドラの話ですよね。想定外のことが突然起きる、みたいな。

そういう意味では、個人向けのPFMも法人向けのクラウド会計も、今後大きなプレイヤーが入るのは難しいのではないかとは思っています。500万人規模のユーザーをすでに獲得しているので、ゼロから入ってくるのは簡単ではありません。あるとしたら、すでに顧客基盤があるプレイヤーだと思うんですが、最初からすぐに利益が出るビジネスではなく、投資回収には時間がかかるモデルなので、なおさら後からは入りにくいですよね。クラウド会計に関しても、僕らはこれまで50億円ぐらいの資金を調達してきていまだに赤字です。そんなマーケットに上場会社で今から張ってこられるかというと、なかなか難しいと思うんです。

村上:逆に赤字であることが参入障壁化してると。

:したくて赤字化しているわけじゃないんですが(笑)。実際、サービスを提供していて感じることは、専門性も必要ですし、時間もかかるビジネスだなあということです。それこそ僕が全国に営業に行って会計事務所のトップの方にお会いし、「こういう世界を目指したいんです」ってお話をして共感してもらうといったことをずっと続けています。時間だけでなく、魂、根底にある想いも必要なビジネスだと思うんですよ。「アプリを作れば立ち上がる」っていうベンチャーっぽいビジネスではありません。

事業を作るのって、予想以上に時間がかかるなあというのが最近感じていることです……。これまで5年以上やってますけど、まだここまでしかできていないという思いしかありません。本当に大きな事業を作ろうと思ったら10年、20年と時間がかかりますよね。だから、腰を据えて飽きずに10年も20年も今の事業を続けることができるかということは、上場前に自問自答しました。そのうえでやろうと決めたので、今は地道にやるだけです。

フィンテック業界全体をよくしていきたい

朝倉祐介(シニフィアン株式会社共同代表。以下、朝倉):大企業や役所との距離が遠い日本のスタートアップの世界で、マネーフォワードは銀行とのAPI連携を進め、同時にパブリックセクターとのつながりを強めている印象があるんですが、こうした活動は最初から意識して動いていらっしゃったんですか?

:「戦略的に動いてきた」と言えたらかっこいいんですけど、2015年に金融庁から瀧俊雄(マネーフォワード取締役 兼 Fintech研究所長)にお声がけをいただいて、初めて役所の皆さんの前でお話をして、それからそうしたパブリックセクターの方々が集まる場にも呼んでいただけるようになったんです。僕も瀧も日本の金融サービスをよくしたいと思って起業したので、パブリックなところに呼んでいただくときは、自社の有利になるようなダサいことはやめよう、日本のフィンテックや金融サービス全体がよくなるなら自社に不利になることでも言おうと、2人で話して決めました。

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