経済効果150兆円!?五輪がもたらす光と影 経済再興への期待の裏側で懸念も膨らむ

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臨海部の整備が再起動

1964年の前回東京大会時、競技施設の建設など五輪の運営に直接関係した費用は295億円。これに対し、道路や新幹線など周辺の整備に費やされた金額は9578億円だった。20年大会は「コンパクトな五輪」を標榜しており、前回ほどのインフラ整備は必要ないとされるが、それでも関連施設建設費の4554億円を上回る額が周辺整備に使われる可能性は高い。

すでに東京都は、五輪開催を念頭に「2020年の東京」という長期ビジョンをまとめており、13~15年度は22の施策に2.7兆円を投じる計画を組んでいる。環状道路の整備や空港の発着枠拡大などは、その一例だ。

しかし、建設や不動産などの関連業界では、22の施策に加えて、何年も前から計画されていながら実現していない、いくつもの開発計画が日の目を見るのではないか、とささやかれている。東京カンテイの中山登志朗・上席主任研究員は「五輪という大義名分がないと実現できなかった公共工事が進む公算は大きい」と指摘する。

たとえば、墨田区押上と港区の泉岳寺を結ぶ全長11キロメートルの鉄道路線。成田空港─羽田空港間の移動を現状の92分から50分台に短縮し、五輪に際して増加が見込まれる観光客の利便性を高めることを狙う。

ほかにも、東京急行電鉄の蒲田駅と京浜急行電鉄の京急蒲田駅を連絡する「蒲蒲線」、東京都心を囲む環状8号線の地下を利用した鉄道「エイトライナー」など、鉄道路線だけでも五輪に便乗した複数の整備計画が口の端に上っている。

ただ、インフラ整備の本丸は何といっても、競技会場全体の6割が集積する湾岸エリアだ。

同エリアの中核を成す台場・有明・青海地区は、鈴木俊一知事時代の80年代半ばに開発計画がスタートした。職住近接の新しい副都心として巨額の事業費が投じられたが、90年代のバブル崩壊によって当初の事業計画は頓挫。「ゆりかもめは空気を運ぶのか」と揶揄された。

96年の街開きから17年が経ち、今でこそ用地全体の7割が利用されるに至ったが、都心からのアクセスはゆりかもめとりんかい線(東京臨海高速鉄道)という、湾岸部を迂回する2路線が中心。不動産業界からは「脆弱な交通インフラが今も同地区のネックになっている」という声も聞かれる。

北側に位置する豊洲や晴海も状況は似ている。たとえば、晴海の大型オフィスビルは今年初めに大口テナントが退去したが、現在も埋め戻しに苦労している。鉄道路線は都営大江戸線のみ。通勤ラッシュ時は混雑のために歩道が大渋滞になることも多く、テナント誘致に悪影響を及ぼしている。

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