性善説?富山ライトレール「信用降車」の挑戦 導入の理由は「富山人はまじめだから安心」

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「運賃後払い」の課金方法を取っている同社だが、ICカードをかざさずに下車してしまう「無賃乗車者」への対策はどうなっているのだろうか。広報担当者は、「新年度が始まる4月には例年、2週間ほどの間、駅に係員を配置し、ICカードを使った乗降がスムーズに行えるようなPR活動を行っている」としながらも、通常期は特に検札やチェックなどは行っていないという。

富山駅北停留場に停車中の富山ライトレールの車両(写真:LERK/WikimediaCommons)

同社の会長を務める森雅志・富山市長は「富山市民は協力的で、これまで大きな問題は起こったことはない」とし、「お客様を信用し、乗務員が確認しないやり方を導入する」と、利用者の善意に強い期待感を示している。あくまで「性善説」に基づいて運営しているのだ。

ただ、運賃を払わずに降りてしまう客はほとんどいないとはいうものの、ゼロではない。ほかの乗客から「無賃乗車の客がいた」との通報があった場合には係員が見回りに行くというが、目立った問題にはなっていないようだ。

欧州における「信用乗車」とは

欧州各国で行われている信用乗車とは、乗客がいずれかの有効なチケットを持っていると「信用」し、改札口や車内でのチケットのチェックを省略する仕組みだ。したがって、これらの交通機関では、自動改札機どころか、改札口に当たるエリアにはさくもなければ、係員もいない。設けられているのは、切符の乗車日時を打ち込む刻印機のみだ。この打刻を行うことで切符が有効となる。もし、刻印を忘れると「チケットを持っていない人」と同様のペナルティを受けることになる。

信用乗車に慣れない日本人観光客は、現地でけっこう「刻印忘れ」による追徴に遭っていると聞く。ウィーンでトラムに乗ったところ、せっかく1日乗車券を買ったのに打刻漏れだったことから、その観光客は無賃乗車分の罰金を払わされた、というエピソードを現地在住者から聞いたこともある。

近年では、チケットをICカード化し、打刻の代わりに構内への出入場をセンサーにタッチすることで管理する事業者もある。この方式を取る最も規模が大きいものとしては、オランダ国鉄(NS)の例がある。NSでは、主要駅を含む全部の駅に「OVチップカード」と呼ばれるICカードのセンサーを置いている一方で、改札ゲートも使っている駅はまれで、利用客の自主性を信用する格好となっている。

富山ライトレールの設立時、森市長は、「欧州では乗車前に切符を買って近くの扉で自由に乗り降りする。(富山ライトレールでは)この制度を考えている」と、信用乗車の導入を念頭に入れたコメントを残している。市長をはじめ富山市の関係者は同市にLRTを導入するに当たり、ドイツやフランスなど欧州でLRTが普及している都市での先進事例の視察を実施。それらの運営状況を見ていたことから、「富山での導入は可能」との結論を得たという。

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