北海道新幹線は「海路が生んだ絆」を超えるか 北前船で全国とつながっていた「道南」の今

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その「問い」を意識したのは、函館市に本社を置く青函航路関連のフェリー2社を訪れたときだった。2社のうち、津軽海峡フェリーは「1台1万4800円で8人まで乗船可能」な企画切符を開発したり、海峡エリアの物産を積極的にフェリー・ターミナルに置いたり、所要時間の短縮で利便性を図ったりと、あらゆる手法で「海の旅」の魅力をアピールしている。

加えて、函館市内の道路整備を追い風に、キャンピングカー利用への便宜を図るなど、フェリーターミナルそのものの「道の駅化」も進めている。道の駅と連携したスタンプラリーを実施してきた経緯もあり、渡島半島一円では、北海道新幹線に匹敵する存在感が伝わってきた。もう1社、「青函フェリー」を運航する共栄運輸も、利便性向上や旅客取り込みに懸命だ。青函フェリーは今年10~12月、マイカー向けの割引制度を導入する。

背景には、長距離トラック輸送が青函航路から離れ始めている現状への危機感もある。2018年6月には宮古(岩手県)―室蘭間に航路が新設されるなど、ドライバーの休息に好適な長距離航路へ、トラック輸送がシフトしているのだという。

新幹線は北前船を超えられるか

筆者は結局、道南地域のうち、渡島半島の様子を軽く確認することしかできなかった。北部の長万部町や八雲町も未踏のままだ。それでも、この地域の広さと多様さを実感し、北海道新幹線と「地域づくり」や「観光」の枠組みをどう結び付けるか、深く考え込んでいる。

同じことを、江差町での講演でも問いかけた。函館市や大沼地域に集中しがちな観光客。それでも渡島・檜山を周遊する人々は少なくない。なぜなのか。そして、これらの人の流れを、いかに、持続可能な地域社会づくりにつなげるか。観光客の呼び込みや「交流人口」増大は、少なくとも青森県や道南地域にとって、それ自体が目的ではないはずだ。「人口減少・高齢化に対応できる地域づくり」の手段ではないのか。

「渡島」「檜山」「道南」「道南西部」……。北海道新幹線の活用をめぐり、多様な枠組みが重なり合っている。何より、現在使われている「青函圏」「津軽海峡圏」という用語も、直感的な「わかりやすさ」と「わかりにくさ」が入り交じり、地元の人間でも使い分けに戸惑う。

「北海道新幹線は、北前船を超えられるか?」。その問いをあらためてかみしめながら、8月末、JR北海道函館支社を訪れた。北海道出身の弘前大学生が授業で考案した、道内出身学生の新幹線利用促進策を届けることが目的の一つだった。

彼らは学内で道内出身者に詳細な聞き取りを実施し、フェリー・航空機利用との対比を経て、閑散期・学生グループ限定の「ともだち割」を提案した。「値引きではなく、駅弁やお土産、飲み物の無料配布か割引が受けられるチケットを添えて、若者に地域の再発見を促してはどうか」という内容だった。採否の行方を注目している。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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